短期集中連載「NRF 2020レポート」
- 第1回:Walmartだけではない、変貌するグローバルリテーラーのデジタル変革による狙いとは
- 第2回:デジタル変革を進める中で直面する3つの壁(本稿)
- 第3回:デジタル変革を通して未来の姿を描くということ--国内リテーラーへの示唆(近日公開)
第1回ではNRF 2020の講演から、デジタル変革で先行するグローバルリテーラーの動向についてお伝えした。その中でカギとなったのは、デジタル戦略の実現に向け自社の現状を可視化し、攻めのポイントを見出せる環境を整える「守り」と、新たな顧客体験を生み出す「攻め」の施策だ。
一方で、攻めと守りを戦略的に展開しているグローバルリテーラーも、全てが順調に進んでいるわけではないということが垣間見られた。「誰を対象とするのか」「どの領域をデジタル化するのか」「デジタル化によって空いた人員はどうするのか」など、デジタル変革を先行するが故の難しさに直面しているようだ。ここでは、そのような状況の中でグローバルリテーラーがどのような対応を実施してきたのかを事例をもとに3つ紹介したい。
- デジタルネイティブ世代への対応
- オートメーション化への対応
- 人とデジタルのすみ分けへの対応
1.デジタルネイティブ世代への対応:Gen-Zへの施策に注力する米百貨店Nordstrom
デジタル変革を進める際、まずはデジタル施策に適したターゲット顧客から攻めるということが重要だ。理由は簡単で、デジタル施策の効果が出やすいためだ。では、どのような世代がデジタル施策に適しているのか。
以前より、「Generation Z(Z世代、以下Gen-Z)」という言葉や分類自体は登場していたが、NRF 2020ではミレニアル世代以上に、Gen-Zへの対応について注目が集まっていた。
Gen-Zとは、1990年代半ばから2000年代前半生まれの世代(年齢では13歳の中学生~22歳の大学生くらい)を指し、「ソーシャルメディアの活用」が他の世代にはない購買行動の特徴だ。彼らは小さな頃からインターネットやPCがある環境で育ったデジタルネイティブであり、ソーシャルメディア起点で商品を探し、情報を収集し、購買に至るまでオンライン/オフライン問わずシームレスな顧客体験を望む傾向が強い。例えば、ソーシャルメディア上でインフルエンサーが紹介する商品を目にした後、スマートフォンのブラウザーで商品を検索・情報収集し、オンラインか実店舗で購入する。
当たり前だが、オンライン/オフラインが融合された顧客体験を提供するということは、それだけ消費者の行動をトラッキングする難易度が上がるということだ。多様化する個々の消費者ニーズ、それも今までとは感覚が異なるGen-Zに対して、リテーラーはどのような対応が必要になるのだろうか。
Gen-Zを含め新しい世代の消費者は、他の世代以上にパーソナライズされた顧客体験を求めているということが、さまざまな調査会社の結果から明らかになっている。つまり、ただ「便利」になるだけでは満足せず、それ以上の「自分にとって価値のある体験」を提供してもらいたいと考えている。
リテーラーサイドも、パーソナライゼーションは数年前から継続的なトレンドテーマとなっており、その重要性を十分認識しているはずだ。一方で、消費者が満足するレベルでのパーソナライゼーションを提供できているリテーラーはごく一部に限られているのではないだろうか。そのような中、他の追随を許さないスピードでパーソナライゼーションに注力してきたのがNordstromだ。
Nordstrom Co-PresidentのErik Nordstrom氏は、多様化するGen-Zのニーズに対応する力がリテーラーには必要だと語った
Nordstromでは、“実店舗で収集されるデータ”と“オンラインの顧客データ”を掛け合わせ、消費者に対し新たな顧客体験を提供し続けることを目的に、過去に2つのデジタルリテールスタートアップ企業を買収している。消費者に届けるメッセージの中には、必ずパーソナルレコメンデーションを含めるようにし、ウェブサイトを訪問した際にもその人に合った商品をAI(人工知能)で分析し、レコメンドする。実店舗とオンラインをまたぐ施策についてはトライ&エラーを繰り返しながら、着実にGen-Zのような若い世代を楽しませるサービスを追及している。
Nordstromの取り組み事例より、Gen-Zのようにライフスタイルが多様化するターゲット層とその消費者ニーズに対応するパーソナライズを追求し、自分にとって常に価値があると感じてもらえるサービスの提供を追求していくことが、デジタル変革においても成功要因の一つと言える。