ガートナー ジャパンは3月3日、2020年以降のIT人材戦略に関する展望を発表した。今後、IT人材不足のさらなる悪化が見込まれる中、企業は従来の常識にとらわれない斬新なIT人材戦略を導入する必要があるという。
優秀なIT人材の獲得は、デジタルビジネスの推進を成功に導く最大の要因の1つと考えられている。ガートナーは2019年に最高経営責任者(CEO)と上級経営陣を対象にした調査を実施。そこで、ビジネス戦略の実現に向けて組織が改善すべき領域の第1位が人材管理だと分かった。
人材管理はビジネス戦略の実現に向けて改善すべき最大の項目(出典:ガートナー)
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ディスティングイッシュト バイスプレジデントでガートナー フェローの足立祐子氏はコメントで、「経営層が人材管理の改善に着目する背景には、世界中で深刻化するIT人材不足がある。IT人材不足を引き起こしている主な原因には、ITデリバリー能力に対する需要の急増と、技術および開発/運用に対する新旧アプローチに関するスキルのミスマッチ、スキル転換の遅れなどが挙げられる」と指摘する。
従来、多くの企業の最高情報責任者(CIO)は、将来必要な能力や人数を詳細に定義・棚卸しをして、ギャップを埋めるための人材調達・育成計画に入るという「スキルベース」の人材戦略を推進してきた。大きな組織での運用において、一定の有効性が認められてきたものの、今後、デジタルビジネスを推進していく上で、このやり方は人材育成上の大きな効果を期待できないと、ガートナーは考える。
イノベーションを推進する人材のスキルは、従来のスキルマップに存在せず、従来の習慣を前提にした人材のスキルとはミスマッチになる。そうした背景から、スキルベースのアプローチに代わって、今後は「プロファイルベース」の人材戦略に移行する動きが広がり、2025年までにデジタルビジネスを事業化段階まで到達させた企業の80%は、スキルベースからプロファイルベースの人材戦略に転換していると同社は予測する。
同社の定義によると、プロファイルベースとは、ITスキルだけでなく、プロジェクトや領域ごとにチームに求められる人材の行動様式/働き方、ほかのメンバーや利害関係者との関係性、勤務場所、チームの特性や規模、必要なITスキル、ビジネススキル、さらには価値観や意識などを総合的に判断してIT人材像を特定するアプローチになる。
「国内においては、日本企業の約8割以上のIT組織が慢性的なIT人材不足に直面しているとみている。世界中でIT人材の獲得競争が激化する中、日本企業のCIOはさらに大胆な施策を打ち出さなければならない。従来の常識と人材管理の定石に基づいた施策では、巨大デジタル企業との競争は言うまでもなく、デジタル戦略に本腰を入れ始めたグローバル企業に追随することすら困難になる」と足立氏はコメントする。
IT人材に関しては、2025年には日本のIT人材のうち5万人が従来のIT人材市場に現れない「隠れた人材」(インビジブルタレント)と化すとガートナーは予測。隠れた人材とは、デジタルプラットフォームを通じ、国境を越えて居住国外の企業で働く人々を指す。エンジニア、デザイナー、プログラマー、テスト担当者、データ・サイエンティストなど、場所にかかわらず業務を行えるテクノロジー業界の多くの人材は、隠れた人材となる可能性があるという。ガートナーでは、日本国内に既に約1万人の隠れた人材が存在し、今後5年以内にその数は5倍にまで増加すると予測している。
「技術者の中には、給与やポジションよりも自己成長をモチベーションの源泉と考える人も多いが、彼らを隠れた人材にさせる原因として、日本企業が賃金の低さに加えて技術者への正当な理解と評価、ならびに技術者のニーズ(職場環境、テクノロジー導入、働き方)などの面での不満に対応できていないことも挙げられる。日本企業には、従来の人材採用方法のみならず、海外にも基盤を持つクラウドソーシングコミュニティーやタレントプラットフォームを積極的に利用することが望まれる。また、従来とは異なる働き方の提供を検討し、柔軟で伸縮性に富んだIT組織を設計した上で、隠れた人材に適した雇用形態を導入することも必要となるだろう」(足立氏)