紙の契約から電子契約へ
古来より、人々は約束事をする時に様々な形で記録してきました。紙が発明されてからは、紙に記録することが一般的になり、書類の作成も手書きからタイプライターに、ワープロにとテクノロジーの発展に合わせて変化してきました。
1980年代以降は、パソコンで文書を作成して印刷し押印したものを保管するような、半分デジタル、半分アナログなやり方が大半を占めるようになりました。
さて、本連載のテーマは電子契約です。電子契約とは、お互いの約束事を電子ファイルで記録して残すことです。実は電子契約はすでに多くの人が日常的に体験しています。例えば、オンラインショッピング。売買契約を電子で行うため、オンラインショッピングも電子契約の一つです。
企業取引における電子契約はなぜ普及しないのか
では、企業取引での電子契約はどうでしょうか。企業取引においては、営業関連、秘密保持、コンテンツや技術に関するライセンス、業務委託や購買、雇用など、様々な契約があります。
企業取引においては、現在でも紙の契約書でのやり取りが圧倒的に多く、最終的な合意内容を電子的に記録を残す電子契約は、まだ採用している企業は多くありません。
日本企業で電子契約が普及しない理由は大きく2つあります。1つは心理的な問題です。紙であれば作成が手軽、改ざんしにくく安心感があるのに対し、電子ファイルは扱いが難しそうで、扱えても簡単に書き換えできてしまうのではないかという懸念です。書類に押印があれば、正式な書類であるように見えるという安心感もあります。
2つ目が、社内の決裁フローや決裁後の管理などが紙の書類を前提に作られているため、電子契約に移行できないという問題です。電子契約を導入するためには、業務プロセス、社内規程を抜本的に見直し改定しないと運用できない場合が多いです。経営者、事務担当者、ITシステム担当者が足並みを揃えて電子契約に切り替えるための社内体制づくりが必要ですが、それができないと導入が難しい、または期待された効果が得られないという側面があります。
電子署名と電子サイン
電子契約が進まない理由の一つとして心理的な問題をあげました。しかし、電子契約においても書類の改ざん防止、本人性の確認という2点をカバーする仕組みは用意されています。それが、電子署名と電子サインです。例えると、電子署名は印鑑登録が必要な実印、電子サインは認印のようなものです。詳しく説明しましょう。
電子証明書が必要な電子署名
電子署名は、本人確認がなされた上で発行される電子証明書を使います。マイナンバーカードを所有している方は、自分の電子証明書をお持ちかもしれません。カード発行時に電子証明書の発行を選択すれば、ICチップに本人を証明する電子証明書が記録されます(5年ごとに更新が必要)。なお、ICチップの電子証明書を読み取るためにはICカードリーダーが必要です。
電子契約をする際に、電子ファイルに電子証明書を用いて電子署名することで、印鑑登録された実印を押したことと同じ扱いになります。また、電子ファイルのデータをハッシュ化することで改ざんを検知できます。
電子署名は、確定申告など国税、地方税の電子申告(e-Taxなど)、会社や不動産に関する登記申請においてよく利用されていますが、身近なところでは、銀行の住宅ローン契約などでも用いられています。
しかしながら、法人においては、電子署名はなかなか普及していません。信頼性の高い仕組みでありながら、法人用の電子証明書の費用、運用などの面で課題が原因に挙げられます。もっとも、2020年4月以降、大企業には法人税や消費税の電子申告が義務付けられ、2021年4月からは中小企業も対象になる予定です。電子証明書の普及のきっかけの一つになりそうです。
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