タイムスタンプは、刻印されている時刻以前に該当する電子データが存在していたこと(存在証明)と、それ以降改ざんされていないこと(非改ざん証明)を証明する技術です。そのデータがいつ作られたものなのかを記録してデータをロックする仕組みで、データの内容に改ざんがないことと作成時間を保証する時刻証明書といえます。電子帳簿保存法では一般財団法人日本データ通信協会によって認定された時刻認証業務認定事業者(TSA)によって発行されたタイムスタンプの付与が求められています。
社内では、取引情報にかかる電子データのファイルの編集、修正、削除など、保存時からの改ざん禁止を明示し、チェックできる運用を規程します。普段から見積もりや注文書などをメールでやり取りしている企業も多いと思いますが、こうした書類についても改ざんをしないように社内ルールを設けておく必要があります。
国税庁では『電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程』として例を紹介(PDF)している(出典:国税庁)
電子帳簿保存法では領収書などの紙の書類をスキャナーで読み取り電子化する場合、電子化されたファイルへのタイムスタンプが必須であるため、電子帳簿保存法にはタイムスタンプが必要と誤解されている方も多いですが、電子契約のように最初から電子データで作成、電子的手段で保管されるものは、電子取引の取引情報にかかる電磁的記録の保存に該当します。タイムスタンプ付与または社内規程での対応からの選択が可能なのです。
なお、電子帳簿保存法は1998年に施行されてから幾度も改正され、より現場の運用に即したメリットのあるものへと進化しています。2019年の改正では、これまで保存している過去の国税関係書類の電子化も認められ、電子化を進める企業が増えると期待されます。書類の保管には倉庫代などのコスト負担が発生しますが、電子化によりそれらのコスト削減が期待できます。
リスク判定をしよう
法律は改正も多く複雑なため、電子契約を進めるにあたっては法務部門など専門家に確認しながら、書類の電子化に求められる法的要件や電子化に伴うリスクの検討などが必要です。
インターネット銀行のソニー銀行では、住宅ローンの契約手続きを電子サインで実施しています。一般的に実印に相当する電子的な署名方法は電子証明書を用いた電子署名と言われていますが、従来、紙の契約書に実印で押印していた契約を電子署名ではなく電子サインで対応するにあたり、同社では現状の法律の許容範囲と電子化に伴うリスクを入念に判断し、電子化を進めたものです。
さて、次回は電子契約のメリットとデメリットについて解説します。
(第3回は4月下旬にて掲載予定)
- 浅井 孝夫
- アドビ システムズ 法務・政府渉外本部 本部長
- 2000年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程卒業。2001年弁護士登録後、アンダーソン・毛利・友常法律事務所にて勤務。2007年韓国最大手の金・張法律事務所にて勤務。2008年米国カリフォルニア州立大学バークレー校ロースクール(LL.M)卒業後、米国ニューヨーク州にて弁護士登録。2009年北京滞在を経て法律事務所に復帰。2011年アドビ システムズに入社。
- 昇塚 淑子(しょうづか よしこ)
- アドビ システムズ デジタルメディア事業統括本部 営業戦略本部 ドキュメントクラウド戦略部 製品担当部長
- アドビ システムズにてドキュメントソリューションの市場開発を担当。2016年の日本市場における「Adobe Sign」の立ち上げ時より、製品担当としてAdobe Signの事業開発とマーケティングに従事。