新型コロナ対策で活用が進むAI技術--AI専門家が事例紹介 - 2/5

渡邉利和

2020-04-02 11:00

 Appierは3月31日、プレス向け説明会を開催した。同社 チーフAIサイエンティストのMin Sun氏が医療/ヘルスケア分野におけるAI(人工知能)利用の重要性を訴えるとともに、新型コロナウイルスへの対応を支援するAIを紹介した。

 同氏はまず、Appierの最新情報を説明。2月にLee Feng Chien博士が取締役会メンバーとして参画、3月にはShou-De Ling博士がチーフマシンラーニングサイエンティストに就任したことを明かした。両氏ともAI研究の専門家であり、アカデミック分野で顕著な成果を挙げた研究者を多く擁する同社ならではの人材強化の取り組みだと言えそうだ。

Appier チーフAIサイエンティストのMin Sun氏
Appier チーフAIサイエンティストのMin Sun氏

 続いて、本題である医療分野に関して「AIサイエンティストの立場」から説明するとしてイノベーティブなやり方でAIを活用し、COVID-19(新型コロナウイルス)対応を行っている実例を紹介した。

 まず、同氏が指摘したのは「現代医療とヘルスケアを革新するのはデータと意志決定」だという点だ。医療記録のデジタル化が電子カルテなどの形で普及し始めており、さらにレントゲンやCT(コンピューター断層撮影)などの医療画像が膨大なデジタルデータの形で保存されるようになってきている。そして、デジタルデータを解析し、データに基づく意志決定を支援するのはまさにAIが得意とするところである。

 新型コロナウイルスが流行する以前のAI活用として、病院患者の“再入院リスク”をAIで評価することで、必要なリソース確保が効率化され、コスト削減につながった事例や、化合物の立体構造の推測にAIを活用することで創薬プロセスの大幅な短縮に成功した事例などを紹介した。

 続いて、新型コロナウイルス対策でAIが活用された事例も紹介された。予防的対策として台湾や中国本土で実行されたのは、検査対象を絞り込むために感染リスクの高い人を判別しやすくするための方策だ。クルーズ船から下船した人のその後の地理空間的な移動を携帯電話会社が保持するデータなどを元に地図上で可視化し、クラスターの発生可能性が高い場所や感染者と接触する可能性が高いと判断される場所と日時などを特定する。そこから、その日時にその場所にいた人に受診を促すための情報を生成するというもの。

 また、顔認証技術と組み合わせることで、現在感染者の発見のために使われているサーモグラフィーによる判定の精度を上げ、温かい飲み物を持ち歩いている人などを除外して、本当に体温が高い人だけを識別できるようにする工夫や、病院内などでの人の移動を追跡し、手洗いを確実に行ったかどうかを判定して注意喚起するシステムなどの例が紹介された。

 また、画像解析への応用では、CTスキャンデータをAIで解析することで、肺炎の可能性が高い画像を高速に抽出することで医師の診断を支援し、肺炎患者を迅速に発見することにつなげている例も紹介された。新型コロナウイルス感染ではウイルス性肺炎の発症につながることが特徴ともなっているため、早急に対処すべき患者を特定するために有効な手段となる。また、ワクチンや治療薬の開発を支援するために、新型コロナウイルスの遺伝配列の変異をモニタリングし、拡散速度を予測するといった研究もAI活用事例として紹介された。

 同氏はAIを「多様な領域においてデータを活用した意志決定するそのプロセスを支援する主要技術」だと位置付け、医療/ヘルスケアの分野でもデータに基づく意志決定、診断や治療方針の決定の際にAIを活用することが今後ますます重要になっていくと指摘した。なお、AppierはAIをデジタルマーケティングの分野で活用することに取り組んでおり、社内に多くのAI研究者を擁するものの、医療/ヘルスケアの分野に事業を拡大する計画はないという。今回の説明は、あくまでも同社のAI専門家の視点で新型コロナウイルス対策とAIの関わりについて説明したものだということだ。

新型コロナウイルスの予防にAIを活用した例。携帯電話会社が持つデータを活用するなど、さまざまな関係者を統合する必要があるし、個人のプライバシーにも直結するため、政府がリーダーシップを発揮して初めて実現する対策と言える。

新型コロナウイルスの予防にAIを活用した例。携帯電話会社が持つデータを活用するなど、さまざまな関係者を統合する必要があるし、個人のプライバシーにも直結するため、政府がリーダーシップを発揮して初めて実現する対策と言える。

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