体験を重ね広げてきたことがテレワーク定着の礎に--リコーの実践

國谷武史 (編集部)

2020-04-16 07:00

(※編集部より:本取材は4月3日に新型コロナウイルス感染症対策を講じた上で行いました。)

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、感染リスクを低減するためにテレワークを導入する企業が増えつつある。だがテレワークは、新型コロナウイルスの流行以前から働き方改革の一環として取り組んできた企業が少なくない。そうした企業では、新型コロナウイルスへの対応を含めてテレワークをどのように活用しているのだろうか。今回はリコーのケースを取り上げる。

大規模展開に向けた下地づくり

 ここ数年、働き方改革の必要性が叫ばれる背景の一つに、業務をする環境の柔軟性を高めることがある。

 リコーでは、古くからフレックスタイム制を導入しており、2014年に現行制度となる「エフェクティブ・ワーキングタイム制(時間を効果的に使う働き方)」を導入した。午前10時~午後3時をコアタイムとし、1日全体としては午前7時から午後8時の間で、時間を有効に活用しながら業務ができるようになっている。人事本部 人事部 ダイバーシティ推進グループの長瀬琢也氏によれば、時差通勤に活用するケースが多いという。

 テレワークの取り組みでは、まず2016年に在宅勤務制度を導入した。育児や介護との両立をする社員や、外出先から帰宅して業務をする人が時間的な効率が良い場合などを対象としていた。また、海外の事業拠点やグループ会社、取引先などと深夜にミーティングを行う必要がある社員も多く、エフェクティブ・ワーキングタイム制と合わせて、いったん帰宅し自宅で夜間に業務を再開するようなこともできる。

リコー 人事本部 人事部 ダイバーシティ推進グループの長瀬琢也氏
リコー 人事本部 人事部 ダイバーシティ推進グループの長瀬琢也氏

 この取り組みが本格化したのは、現代表取締役 社長執行役員 CEO(最高経営責任者)の山下良則氏が就任した2017年になる。働き方変革を全社展開していく社長直轄のプロジェクトがスタートした。

 このプロジェクトには、長瀬氏の所属する人事部門やIT部門などが参加し、組織横断型の取り組みとして推進されている。「時間と場所を自ら選択する効率的な働き方」を目指し、人事制度だけでなく、働く場所の変革やコミュニケーションツールなどのITインフラの刷新、意識や風土の変革などを実施してきた。

 そうした中で、2018年4月に全社員を対象とするリモートワーク制度を開始した。時間の使い方の選択肢を増やすため、月5回までだった利用制限を10回までに拡大した。

 さらに、働く場所の選択肢を増やすために、各事業所にサテライトオフィスを整備するとともに、社外でも業務ができるサテライトオフィスの外部サービス活用も開始した。

 「所属する事業所に戻らずに、外出先から最寄りのサテライトオフィスで業務した方が時間を有効に活用できる。また、在宅勤務するのが難しい社員もいるので、自宅近隣で仕事ができる環境も確保している」(長瀬氏)

 政府が実施している「テレワーク・デイズ」や「テレワーク月間」にも積極的に参加してきた。2019年6月には東京オリンピック期間に本社をクローズし、原則として在宅勤務にすることを発表、そのために1~2カ月に一度全社的なリモートワーク実施日を独自に設けて取り組みを進めていた。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、東京オリンピックの開催は2021年7月に延期されたが、「元々オリンピック期間の約2週間は交通の混雑緩和に貢献するため、本社のクローズも含めてリモートワークに取り組んできた。新型コロナウイルスの発生によって、結果的にそれが数カ月前倒しになった形だが、ほぼ問題なくリモートワークに切り替えることができた」(長瀬氏)

 2017年度末に約200人だった在宅勤務利用者は、制度を本格化させた2018年度末には約3000人、新型コロナウイルスの感染拡大前には、同社単体で7割近い約6000人へと急速に拡大したという。同社では、2月27日にグループ全体としての新型コロナウイルス感染症への対応を表明し、3月2日からは原則として在宅勤務としている。月間10日までとしていたルールを緊急措置として無制限に切り替えるなどの対応を実施している。

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