コミュニケーションを可視化するメリット
では、次にコミュニケーションを設計するためには具体的に何をすべきか見ていきましょう。
最初に行うのは、コミュニケーションポートフォリオの整理です。時間(急ぎ、急ぎではない)と重要度(重要、重要ではない)を主軸にして社内のコミュニケーションを整理し、それぞれの手法を“具体的に”記載します。習慣軸で整理すると簡単です。下の表を参考に説明します。秘訣は顔をあわせる会議のあり、なしを明確にすることです。
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たとえば、「急ぎ、かつ重要」な要件で、「数時間以内」に意思決定をしたい時には、特定の相手と確実にコミュニケーションができるよう、チャットの「メンション」機能やダイレクトメール、さらに緊急の場合には電話などのリアルタイムなコミュニケーションを選択します。
一方、「急ぎではなく、重要ではない」――たとえば、自分のメモ書きを共有したい程度のコミュニケーションであれば、メンバー全員が見られるチャットを利用します。
コミュニケーションの設計で留意すべきは、“会話をほどよく可視化すること”です。電話などの音声よりもチャットなどのテキスト、ダイレクトメールよりも閲覧制限を設定したチャンネルへの投稿を心がけ、コミュニケーションをオープンにすることです。テキストを残し、「記録」として後から見られるようにすることで、不要なトラブルを防止するのに役立ちます。
口頭での伝達は記録に残りません。“言った、言わない”のトラブルも発生します。また、クローズドな会話では、ポジショントークで相手に対して理不尽だったり合理性を欠くような要求をしたりする人も出てきます。コミュニケーションした内容は、会社の「資産」といっても過言ではありません。ですから、文字に残り、後から確認できるツールが有効なのです。
さらに言えば、コミュニケーションは“発信”するものではなく“発掘”するものです。そのためには、常に情報を発掘できる状態にしておく必要があります。具体的には、全社員が可能な限り同じ情報を見られる状態にしておくこと。たとえば、全社レベルの週刊レポートは、人事情報などのセンシティブな情報を除き、可能なかぎり全社員に公開をすべきです。
以前、筆者がプロダクトマネージャーを務めていた楽天では、業務上機密になる事案を除き、事業に関する情報を社内で公開していました。利害関係が一致しない場合であっても、情報の公開、共有は会社の一体化を促進します。そのためには、社長から現場社員までレポートのフォーマットを統一しておく必要があるでしょう。そうすれば、「発掘しやすい環境」が生まれ、効率的なコミュニケーションも可能になるのです。
「情報を共有する」ことは、従業員を「管理する子供」として扱うのではなく、「自律し、自分の頭で考えられる大人」として信用する証です。そのためには「社員を信頼する土壌」を構築しなければなりません。当然、罰則も必要です。性悪説ではなく性善説で運用しているのですから、センシティブな情報を意志的に公開したりルールを守り破ったりした場合には、その責任を負わなければなりません。
こうしてみると、コミュニケーションの最適化はドライな人間関係を構築するように思われるかもしれませんが、それは違います。KADOKAWA Connectedでは顔を付き合わせたリアルな「ミーティング(飲み会とも言います)」を頻繁に開いています。筆者はこれを「信頼貯金作り」と呼んでいます。有志による飲み会や勉強会、部署を超えた麻雀大会、そしてパートナーさんを交えたセミナーやゴルフ大会など、胸襟を開いたコミュニケーションで相手の人となりを知るのです。
そもそも直接お会いして人脈作りをすることと、ツールを使ってコミュニケーションすることは目的が異なります。前者は信頼の貯金を作るもの、後者は“エビデンスを残し、情報として活用すること”です。そうした違いを理解してコミュニケーションを最適化すれば、スピード経営ができる「柔軟で強靱な組織」を形成する土壌が醸成されるでしょう。
(第4回は6月上旬にて掲載予定)
- 各務 茂雄(かがみ しげお)
- KADOKAWA Connected 代表取締役社長
- 情報経営イノベーション専門職大学 准教授
- EMC CorporationやVMware、マイクロソフトなどでエンジニアやプロダクトマネージャー、クラウド技術部部長などを歴任。楽天ではプロダクトマネージャーとして楽天優勝セールを支えるインフラの構築、アマゾン ウェブ サービス ジャパンではコンサルティングチームの責任者として顧客企業のクラウド導入・移行支援を統括した。ドワンゴではICTサービス本部長として、同社のインフラ改革を1年で実現した実績を持つ。