新型コロナウイルスの感染が拡大し、感染ペース緩和のために対人距離を確保する政策が導入された英国では、社会がさまざまな面で大きな影響を受けており、組織は業務運営についてあらゆる面で再考を迫られている。
このことは、対面でのコミュニケーションに依存している組織にとっては大きな問題になっている。1つしかないキャンパスがパンデミックの影響で閉鎖されたサセックス大学は、そのような組織の一例だ。
スタッフや学生をネットワークでつなぎ、コミュニケーションを取るためのテクノロジーを導入すれば問題は解決するだろうが、同大学にはまったくその準備が整っていなかった。ロックダウンが始まる1週間前には、リモートデスクトッププロトコルで在宅勤務を行えた大学のスタッフが100人しかいなかったほどだ。
しかし今では、3000人のスタッフと1万人を超える学生が大学に接続し、自宅で仕事や勉強を行えるようになっている。大学全体がリモートでも機能するようにする大転換を、極めて短期間で成し遂げたことになる。
サセックス大学のITディレクターJason Oliver氏によれば、それができたのは、1年以上かけて策定中だった、5年間のデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略を早送りで進めたためだという。この計画には、クラウドアプリケーションやネットワーキング技術、ビデオ会議システムの導入なども含まれていた。
「新型コロナウイルス対応の裏側で行ったのは、5年間のDX計画の多くを1週間に濃縮して実行することだった」と同氏は言う。「新型コロナウイルスに対応しなければならないという決定が下されたことで、私は、5年間分の計画ロードマップと戦略を1週間で実現できることにまとめてみようと考えた」
2018年9月に同大学に移って以来、Oliver氏が最優先に行ってきた仕事がこの戦略の策定だった。同氏の狙いは、これまで技術への投資が少なかった組織が、デジタル化によって可能になった遠隔教育の機会を取り入れられるよう支援することだった。
Oliver氏が立案したデジタル化の計画は最近、同大学の経営チームから、DX戦略として予算の承認を受けていた。新型コロナウイルスの影響が明らかになると、サセックス大学のITチームは、この長期行動計画を短期間で実現することにした。
「この取り組みへの支持をすでに取り付けていたこともあり、この計画がリモートで作業をしなければならないスタッフや学生にもたらすメリットが明らかだったことで、DX計画の推進は、普通にスタートした場合よりもはるかに楽になった」と同氏は言う。
サセックス大学のITチームは、さまざまな技術の導入を早回しで進めた。これには、学習管理プラットフォームの「Canvas」、講義キャプチャソフトウェアの「Panopto」、Citrixの仮想デスクトップインフラ、コラボレーションのための「Microsoft Teams」、ビデオ会議システムの「Zoom」、Amazon Web Services(AWS)の技術を利用したサポート用チャットボットなども含まれていた。
ITチームはそれまで数カ月かけて、DXのプロセスの一環として、どのようにCanvasとPanoptoを導入するかを検討していた。この作業は素早く進められ、現在は遠隔授業を受ける学生たちが完全なオンライン学習環境を利用できるようになっているという。
講義はストリーミング配信され、後から完全な字幕付きで見直すこともできる。これは、英語が母国語ではない学生を含めて、すべての学生がリソースにアクセスできるということだ。