新型コロナウイルスの感染拡大によって、「未来の働き方」はもはや抽象概念ではなくなった。遠い将来の未来予想図だと思っていた状況が、突如として、多くの企業で日常になっている。多数の都市がロックダウンされ、多くの働き手が自宅で仕事をせざるを得なくなり、あらゆる業界の企業が新たな時代に踏み込んでいる。「全員がリモートで仕事をする時代」だ。
もっと散文的な言い方をすれば、規模の大小を問わず、場合によっては数日のうちに、組織の労働力全体を在宅勤務に切り替える必要に迫られたことで、一部の従業員の働き方は、長時間労働から、無数のやることリストをこなしていくものに変わったとも言えるだろう。組織のテクノロジー戦略をリードする責任を担う最高情報責任者(CIO)やそのチームは、多忙な数週間を過ごしたはずだ。
CIOの今の仕事は、自宅で仕事をする従業員の生産性を維持できるテクノロジーアーキテクチャーを整備することだ。現在の状況では、それを実現するには、在宅勤務のための新たなシステムをゼロから立ち上げざるを得ない場合もあった。しかも今では、完全なロックダウンが起きたことで、社員がオフィスにきて、IT部門に予想外の問題の解決を手伝ってもらうこともできない状態になっている。
例えば英国のリーズ市議会は、週末の間に、オフィスで働く1万1500人の職員が自宅から働ける環境を整えた。リーズ市議会のデジタルサービスチームは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が大きくなる前に、たった3日間で7000台のノートPCを準備しなくてはならなかった。
短期的に見れば、これまでのCIOの最大の課題は、全職員が遠隔で勤務できるようにツールを準備するという、技術的なものだった。従業員のノートPCをセットアップするという作業は、そのごく一部にすぎない。ITチームは、従業員がさまざまなリソースを確実に利用できるようにする必要もあった。これには、リモートデスクトップやその他の適切なバーチャルデスクトップインフラによって、電子メールや、ファイルの同期と共有などの、ごく基本的なアプリケーションへのアクセスを確保することも含まれる。
数千人の従業員が自宅から同時にログインすれば、外部からのトラフィックは急増する。システムがこれに耐えられるようにするには、回線を増強する必要があることが分かったケースも多かった。パンデミックによる混乱が起きる中、マルウェアによる攻撃も増えており、セキュリティに対する懸念も優先事項リストの中で上位に挙がっている。CIOは、安全なアクセスを確保するために、VPNやエンドポイントセキュリティ、多要素認証に追加予算を割り当てなければならなかった。
しかも、これらの作業は、増える(多くはリモートからの)ITに関するサポートリクエストをさばく作業と並行して、短期間のうちにすべて終える必要があった。クラウドコンテンツ管理企業のBoxでCIOを務めるPaul Chapman氏は、日常的にほかの企業のCIOとも連携を取っているが、同氏を含む多くのIT担当者は、状況の急激な悪化に意表を突かれたと米ZDNetに話した。