米航空宇宙局(NASA)の火星探査車(ローバー)「Curiosity」は2012年から火星表面上で活動を続けているが、その運用を担うチームは地球上の自宅からあまり外出できない状態が続いている。彼らが2億マイル(約3億2200万km)離れた場所でのプロジェクトに取り組んでいるからといって、ソーシャルディスタンシング(対人距離の確保)という新たな規則から逃れることはできないのだ。
オフィスが閉鎖されて3日後、Curiosityのチームメンバー全員が遠隔地から作業を実施し、ローバーの制御に成功した。
提供:米航空宇宙局/ジェット推進研究所(カリフォルニア工科大学)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延によって米国各地のオフィスが3月に閉鎖を余儀なくされた結果、Curiosityのチームも業務の継続に向け、在宅勤務への移行を検討せざるを得なくなった。
同チームはカリフォルニア州パサデナにあるジェット推進研究所(JPL)を拠点としている。同州は2月下旬に陽性患者が初めて確認された州の1つだ。このためNASAの火星探査部門は、パンデミックが近々押し寄せてくると明らかになった3月初旬から、日常業務に及ぶであろう大きな混乱への対処を開始した。
Curiosityチームの作業の多くは、火星のゲールクレーターのパーランプヒルズ周辺で活動を続けるローバーの維持管理および制御と、ローバーが発見したもの(たいていの場合は、搭載されている機器によって集められた岩や砂の分析によって得られたデータ)の監視となっている。言うまでもないが、在宅で作業を進めるとなると、一般的なオフィスでの仕事の場合とはまったく異なる準備が必要となる。
Curiosityプロジェクトの責任者らは早い段階で、一部の従業員によって遠隔地から作業を進める方法について知恵を絞っていたが、同プロジェクトの科学者であるAshwin Vasavada氏が米ZDNetに説明したところによると、その時点ではどれだけ大変なことになるのかを明確に理解している人間は1人としていなかったという。
このため同チームは、特殊な機材を必要とするなどの理由がある一部のチームメンバーのみ、今まで通り研究所内で作業を続けるという選択肢とともに、全員が自宅から作業を進めるという選択肢を検討した。またプロジェクトのリーダーらも、可能な限り通常通りの運用を続けるというものから、ローバーを維持するための最小限の作業だけを実行するというものまで、さまざまな対応策を検討した。
Vasavada氏の回想によると、遠隔地運用が実際に必要となるかどうか、あるいは必要となる場合にはいつからなのかもまだ分かっていなかった3月12日の木曜日の段階で、チームは遠隔地運用の完全な予行演習を実施したのだという。同氏は「翌週の月曜日は研究所で作業したが、火曜日にはほとんどすべての従業員が在宅勤務を始めていた」と述べた。
その後、同チームは予行演習中に遭遇したいくつかの問題に対処するため、3日間という期間を決めて一時的に通常運用を停止することにした。Vasavada氏は「その3日間、チームは懸命に作業し、隅々まで詳細を詰めたり、要員が必要とする機材を提供したり、さらなる予行演習を実施した」と付け加えた。