Salesforce Researchは、人工知能(AI)を利用した租税政策で、平等性や生産性を向上させる方法を研究した新たな論文「AI Economist」を発表した。税の研究に強化学習を活用し、政策立案者が最適な税を定義するためにシミュレーションできるようにするという。SalesforceのAI研究者によると、経済学者などが、中間層の支援などの特定の社会目標を達成する政策を策定する上で役立てられるようにする狙いがある。
この研究を率いたNikhil Naik氏はブログ記事で、「当社のモデルは、判断のベースとすることのできる新たなツールをエコノミストや政策立案者に提供する」と述べた。「数年にわたる経済の動きを何百万通りもシミュレートして、さまざまな租税の枠組みを見いだすことにより、AI Economistは、労働意欲の増進または減退の誘因となるかどうかといった、税に対する人々の実際の反応を予測できる」
この新しいAIフレームワークは、多数のAIエージェントを利用して、人々が現実にさまざまな税にどう反応する可能性があるかをシミュレーションする。各AIエージェントは、リソースを集めて取り引きをしたり、家を建てたりして金を稼ぐ。そして、行動や取り引き、建築といった活動を調整することで、自らの効用(または幸福度)を最大化できるよう学習する。シミュレーションを実行しながら、AI Economistは、税や助成金を最適化し、特定の目標に向かう方法を学習する。
この研究は、適切な租税政策であれば、生産性と公平性との「最適な」バランスがとれるという前提に基づいている。生産性と公平性の両方を向上させられる政策は確かに存在するが、市場経済において、両者の間にトレードオフが生じるのは避けられない。
経済モデルは経済の動的な性質(政策は常に変わり、労働者は新しい技能を身につける)を考慮に入れていないため、そういったモデルを利用してさまざまな租税政策の結果を予測するのは困難な場合があると、研究者らは別のブログ記事で指摘している。
研究者らは「経済理論は、現実世界の複雑さを完全にはモデル化できない」として、「租税理論は代わりに、たとえば税が人々の労働量に及ぼす影響など、立証が困難な前提を簡略化することで成り立っている。現実の世界で租税に関する実験を実施するのはほぼ不可能だ」と述べている。
AIを利用することで、そうした問題の一部を克服できるとしながらも、研究者らは同時に、「AIに基づく経済シミュレーションにはまだ限界がある」とも認めている。
このブログでは、さらに次のように続けている。「これらは社会的配慮など、人間の行動に関する要因や人と人との交流をまだモデル化しておらず、比較的小さな経済圏を想定している。それでも、このようなシミュレーションは、さまざまな租税政策が経済に及ぼす影響について、透明で客観的な見方をもたらしてくれる。あらゆる社会目標について、このシミュレーションとデータに基づくアプローチを併用することで、高い成果があがる租税政策を自動的に見つけ出せる」
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。