電子契約をテーマにした本連載も今回が最終回です。
緊急事態下でも紙やハンコのために6割が出社
2月以降、新型ウイルス感染症(COVID-19)対策としてリモートワークを実施する企業が増加しました。通常業務やミーティングなどは、リモートワークで支障なくできたとしても、契約書や決裁書の押印のために出社する必要があった、という方もいるのではないでしょうか。
実際、アドビ システムズ(アドビ)が実施した調査では、「テレワーク中に、判子や書類へのサイン、オフィスに保存してある紙書類を確認するといった、出社しなければ対応できないようなタスクが発生してしまい、出社した経験があるかどうか」を聞いたところ、約5人に1人となる21.4%が「頻繁にある」と回答。「ときどきある」と回答した42.8%と合わせ、実に6割以上の方がリモートワーク中にやむなく出社した経験があるということがわかりました。
リモートワーク中の出社経験(出典:アドビ)
新型ウイルス感染症の拡大が急に発生したように、災害や有事は前触れ無く突然やってきます。平常時にリモートワーク、電子契約の仕組みを整えておくと、書類や印鑑など物理的なものに依存せずに、オンラインで通常通り業務が継続できるようになります。
契約書締結は交渉におけるラストワンマイル
そうはいっても、物理的な契約書を取り交わして初めて取引できる信頼関係が成立すると考えるかもしれません。しかし、営業業務においては、契約締結に至るまでの過程で契約内容はほぼ確定しているはずです。いわば、契約書締結は交渉におけるラストワンマイルです。
契約に必要な議論を経て諸条件が合意されていれば、ラストワンマイルは事務処理のみのはずですが、書類の郵送や押印に時間がかかってしまい本来の業務遂行が先延ばしにされては本末転倒です。ラストワンマイルが進まないために、ビジネスが止まることもあります。電子契約に切り替え、書類の送付など時間的な制約がなくなるだけで業務効率化をすすめ、より価値のある業務に時間を費やすことができるようになります。
生産性を高めるデジタルファースト法
電子契約は、政府戦略としても推し進められています。例えば「情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るための行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律等の一部を改正する法律」(デジタルファースト法)は2019年4月に成立し、2019年度から順次施行されています。この法律は、行政手続きをデジタル化して、効率化、生産性向上を目指すためのものです。
第2回でも取り上げましたが、電子帳簿保存法により企業の会計書類の電子化も推進されています。物理的な書類を減らす方向に向かっており、法律的な面でも電子化を進めやすい環境が整いつつあるのです。
電子サインのクラウド化が進む
政府は各省共通の基盤システムをAmazon Web Services(AWS)を利用して構築することを発表しています。これまでクローズドなネットワークを使っていた政府もクラウド環境を利用してIT化を推進するようになりました。同様に電子サインのクラウド化も進んでいます。電子証明書をデバイスに保存する運用から、クラウド上に保存する運用も普及しています。
アドビは欧州連合(EU)を起点に活動する電子認証業界や学術界の専門家から構成される「クラウド署名コンソーシアム」の中心メンバーとしてコンソーシアムの設立を推進しました。このコンソーシアムは、デジタル署名をクラウド環境で実現していくための標準規格を策定、公開しており、日本国内の「リモート署名ガイドライン」の策定にも影響を与えています。