電子契約を導入するときにまずやるべきこと
さて電子契約について解説してきましたが、いざ自社で取引先との契約を電子契約に切り替えようと思ったとき何をしたらよいのでしょうか。
まずやるべきは、導入ゴールの明確化です。第4回でソニー銀行の事例を紹介しましたが、同社では電子化による顧客利便性の向上と業務効率化をゴールに設定しプロジェクトを推進しました。ゴールを明確にしたうえで、潜在的なリスクの洗い出しや自社業務においてどこまでが許容範囲であるかを判断して導入を進めたのです。
契約書のような書類のプロセスを電子化する場合、そのプロセスには利用部門、管理部門、法務部門など異なるステークホルダーが関与します。電子化を進める明確なゴールが関係者全員の認識として共有されていないと、組織間の利害関係の食い違いや課題に遭遇した際、解決にむけたエネルギーが持てずに、計画が白紙になりやすい傾向があります。
電子契約を実現するソリューションはさまざまなベンダーが提供しています。複数のソリューションを比較検討して自社の規模や目的に合わせて選定するとよいでしょう。最近は、クラウドベースのシステムが充実しており、以前のオンプレミスのシステム構築に比べて、初期投資が安価で導入できるようになっています。お試し利用ができることが多いので、実際に使ってみて使用感を評価するとよいでしょう。
紙での処理を前提とした既存のプロセスがそのまま電子化できるとは限りません。導入前に既存業務の棚卸し、プロセスの見直しが必須です。しかしながら、最初から全社の対象業務を完璧に棚卸ししようとすると、それだけで膨大な時間と工数を消費してしまいます。最初から全社で一斉導入するよりも、一部の部署で試験導入し段階的に適用範囲を広げることをお勧めします。電子化によってフローがどう変わるのか、プロセスに不都合はないか、実業務で検証することで、全体で導入するときのワークフローの標準やルールを設計できます。
今後、新しい働き方や有事の場合に対応するためにも、電子契約はぜひ取り入れていくべき社内システムになっていくでしょう。

- 浅井 孝夫
- アドビ システムズ 法務・政府渉外本部 本部長
- 2000年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程卒業。2001年弁護士登録後、アンダーソン・毛利・友常法律事務所にて勤務。2007年韓国最大手の金・張法律事務所にて勤務。2008年米国カリフォルニア州立大学バークレー校ロースクール(LL.M)卒業後、米国ニューヨーク州にて弁護士登録。2009年北京滞在を経て法律事務所に復帰。2011年アドビ システムズに入社。

- 昇塚 淑子(しょうづか よしこ)
- アドビ システムズ デジタルメディア事業統括本部 営業戦略本部 ドキュメントクラウド戦略部 製品担当部長
- アドビ システムズにてドキュメントソリューションの市場開発を担当。2016年の日本市場における「Adobe Sign」の立ち上げ時より、製品担当としてAdobe Signの事業開発とマーケティングに従事。