Summary
- 社会やテクノロジーの変化に伴い、小売業においても消費者に対してより快適な購買体験を提供することが求められている
- その中で、食品宅配サービスなど、商品を最終拠点から消費者に届けるまでの”ラストワンマイル事業”の注目度が増加
- 現状、”ラストワンマイル事業”の収益性は高くないものの、他社への顧客の流出を防ぎ将来的なビジネス機会に備えるためにも、社会変化に合わせた新たな仕組み作りは小売業にとって喫緊の課題
- 今後、各事業者が”ラストワンマイル事業”の基盤を構築していく上では異業種間での連携、同業種との協業、AI(人工知能)などを活用した究極に最適化された配送プラットフォームの構築が要諦
始めに
Amazon Effectに代表される社会やテクノロジーの環境変化に伴い、小売業界や外食業界において“OMO(Online Merges with Offline)”の浸透が進んでいる。“OMO”の考え方はオンもオフも区別しない日常的な体験の中でサービスと自然に接し、その時一番便利な方法で購買行動を取ることができる世界を描く。つまり、消費者はいつでも場所を選ばず買い物を楽しめるようになるということである。
小売事業者や外食事業者は“OMO”の実現に当たり、消費者が買い物を行うためのECサイトやアプリ、いわゆる“フロント”の改修に力を入れている。しかし、“フロント”の改修だけでは“OMO”を実現するためのカスタマージャーニーは完成しない。各事業者は消費者へ届ける配送や物流、いわゆる“ラストワンマイル”にも注力し、試行錯誤を重ねている。
ラストワンマイルの概要
“ラストワンマイル”とはもともと通信業界で使われていた言葉であるが、近年配送や物流の世界において「物流センターや店舗などの消費者に最も近い拠点から消費者まで商品を運ぶ配送の最後の区間」という意味でも使われ始めている。
“ラストワンマイル”では特に食品に関するサービス、例えば「移動スーパー」「ネットスーパー」「フードデリバリー」といった食品宅配に関するもののニーズが年々高まっている。背景には、運転免許証の自主返納といった理由により自力で買い物に行けない「買い物弱者」の増加や、子育て世帯・共働き世帯の増加などが影響していると考えられる。特に「買い物弱者」は農林水産省の発表によると2005年からの10年で678万人から825万人へ増加しており、今後も増加傾向が続くと見られている。
加えて、新型コロナウイルスの影響により自宅にいながら注文ができる「ネットスーパー」や「フードデリバリー」の需要が増加している。ウェブサイトの動向を可視化、提供するSimilarWebの「新型コロナウイルスのインパクトレポート」(2020年3月30日)によると「ネットスーパー」「フードデリバリー」へのトラフィックが月を追うごとに増加していることが分かる。
もともとターゲットであった「買い物弱者」や「子育て世帯・共働き世帯」に加え、「Stay Home」の方針の中で利便性が認知されたことにより、今後生活に不可欠なサービスとして定着していくと考えられる(図1)。

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