DXで見直したい人事制度--給料と賞与を分ける、外部スタッフにも均等な教育

各務茂雄 (KADOKAWA Connected)

2020-06-09 07:15

 前回は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を成功させる重要なプロセスとして「コミュニケーションを最適化する」施策を紹介しました。最終回では、企業の人事制度に焦点を当てます。DXを成功させるためには、DX人材が存分に実力を発揮できる人事制度が必要です。では、どのような点に留意して、人事制度を構築すればよいのでしょうか。

人材ポートフォリオマップで個人のスキルを把握する

 最初にお伝えします。人事制度を見直そうとすると、必ず社内の壁にぶつかります。

 現在、多くの日本企業――特に大規模企業――は、年功序列の人事制度を採用しています。同制度は勤続年数とともにポジションが上がって管理職になるため、ベテランになるほど現場から遠ざかりがちです。その結果、最近の技術動向やトレンドに接したり、直接手を動かしたりする機会が減ってしまいます。しかし、こうした人材は“偉い人”ですから、プロジェクトの意思を決定するポジションに就きます。

 DXには柔軟性と俊敏性、そして新しい創造力が求められます。残念ながら「単に会社に長くいただけの人」が幅をきかせている環境では、DXの実現は難しいでしょう。

 連載の第2回では、仕事の役割を明確し、各職種の役割(ロール)を定義する重要性を説明しました。人事制度でも同じです。大切なことは仕事やロールに応じてポジションを与え、相応の賃金を支払える体制を構築することです。

 下の人材ポートフォリオマップ(図1)を見てください。これは、個人のスキルとロールを明確にし、プロジェクトに応じて適切な人材配置をしたり、必要な人材を教育したりするために利用するものです。

図1(出典:KADOKAWA Connected)
図1(出典:KADOKAWA Connected)

 縦軸に「発散思考(創造性)」と「収束思考(マネジメント)」、横軸に仕事アウトプット(品質×量)をとります。そして、社員一人ひとりをマッピングしていきます。

 縦軸の発散思考と収束思考とは、米国の心理学者であるJoy Paul Guilford(ジョイ・ギルフォード)が提唱した概念です。発散思考の人物は、既成概念に囚われない新しい発想でビジネスを創造したり、異業種の人たちとコラボレーションしたりするタイプの人です。いわゆる「クリエーター」と呼ばれる人たちは発散思考の素養がある人だといえるでしょう。

 一方、収束思考の人物は、物事を理論的に考え、アイデアを具体的な施策に落とし込めるマネジメント力があるタイプの人です。プロジェクトの進行や予算などを管理する“ロジ周り”の仕事ができる人です。

 横軸のアウトプットは、文字通り仕事のアウトプットで、仕事の「質」×「量」で決まります。右側はアウトプットが大きく、会社への貢献度が高いことを意味します。当然、その対価として給料は上がります。ただし、右側に行こうとすればするほどチャレンジするリスクも上がり、仕事はきつくなります。一方、リスクを取りたくなければ、給料の増加は望まず、現状のポジションで確実に仕事をこなせばよいのです。

 ここで留意してほしいのは、アウトプットはその人の自己成長でいくらでも変えることができます。たとえば、仕事に慣れていない新入社員は左側ですが、トレーニングを積んでチャレンジをすれば、いくらでも右側に行くことができます。

 また、「発散思考」か「収束思考」かは、一緒にプロジェクトを組むチームによって相対的に変わってきます。

 たとえば、筆者はKADOKAWA Connectedの中では発散思考にマッピングされます。しかし、以前に所属していたドワンゴでは創造性あふれる(ぶっ飛んだ)人材がいたので、筆者は収束思考の人材として、マネジメントに徹しました。つまりチームのメンバーが変われば、個人の役割は変わるのです。

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