ビジネス向けのAI(人工知能)として「IBM Watson」をプッシュするIBM。多数の導入事例を持つが、5月6日までオンラインで開催したイベント「Think Digital Event Experience」では、ドイツの航空大手Lufthansa Groupと、国際貨物輸送の米UPSの2社がWatsonの活用について語った。
顧客サービスでコグニティブサーチを導入
Lufthansaは、顧客サービスを目的にWatsonの導入を開始した。同社でデータとアナリティクスのトップを務めるMirco Bharpalania氏は、「AIとアナリティクスを強化することで顧客にはより良い体験を提供できるし、従業員に対しては長期と短期の両方での意思決定を支援できる」と可能性を語る。ここでは、3ステップで導入したという顧客向けの取り組みについて語った。

LufthansaのMirco Bharpalania氏
ユースケースは無限に考えられることから、まずWatsonの可能性を試した。ターゲットはコールセンターだ。Lufthansaのサービスヘルプセンターでは、世界180拠点に分散した1万5000人のエージェントが問い合わせに対応しており、これを22人の社員が管理している。日々寄せられるさまざまな問い合わせに対し、コールセンターのエージェントは分散している情報を確認しながら応対しなければならない。そこで、一部の社内コールセンターで「Watson Explorer」「Watson Assistant」「Watson Natural Language Understanding」などを組み合わせ、自然言語を使って検索できるコグニティブサーチを実装した。成果を感じたBharpalania氏らのチームは、その後に顧客コールセンター全体でコグニティブサーチの実装を進めた。
次に行ったのは、組織作りだ。「Watsonを使ったAIのユースケースをきちんと実装し、AIのイニシアティブを拡張していくためには専用のチームが必要」とBharpalania氏。同社は2019年、IBMと共同で「Lufthansa AI Studio」を立ち上げ、アジャイルな方法論に基づいてAI適用のビジネスアイディアとサービスを迅速にテストし、プロトタイプを実装し、実際に届けるという体制を整えた。
最後のステップが、データサイエンスツールのモダン化だ。それまで同社のデータサイエンティストは、個人でJupyter Notebookなどを使っており、オンプレミスのソリューションもあった。IBMの協力を受け、「Watson Studio」「Watson Machine Learning」などのツールを導入、クラウドストレージ、KubernetesなどのPaaSサービスを使い、クラウドネイティブなデータサイエンティストプラットフォームを構築したという。現在はデータサイエンティスト全員が同じデータサイエンス基盤を使っており、ユースケースなどの作業の簡素化がはかれたという。
Lufthansaでは今後もAIの活用を進めていく方針だ。「膨大なデータ資産がある。このデータをもっと活用して、モダンなテクノロジーと組み合わせて価値を生み出したい」とBharpalania氏は述べた。