マネージャーを目指すエンジニアのためのビジネスナレッジ

正しい意思決定を導き出す、エンジニアのための交渉技術 - (page 2)

末永昌也 (グロービス)

2020-06-19 06:00

ビジネスサイドにコスト感覚をインストールする方法

 開発者として推奨したい方向性があるにも関わらず、その伝え方がうまくいかないことで不本意な進行に陥ってしまうことはないだろうか。最初に条件を与え、特定の方向に見方を導きたいときに活用できる「アンカリング」と「フレーミング」の考え方を紹介したい。

 ステークホルダー(利害関係者)の中には“10人月”かかるシステム開発も、どれくらいのコストになるかがイメージしづらい人もいるだろう。コスト意識を持たずに要望を聞き開発していれば、意図しないコストがかかってしまう結果になりかねない。

 ここで活用したいのが、アンカリングとフレーミングだ。アンカリングとは、最初に条件を与えることをいう。フレーミングは、特定の方向に見方が誘導されることだ。

アンカリングとフレーミングの考え方(出典:「グロービス学び放題」アンカリング・フレーミング)
アンカリングとフレーミングの考え方(出典:「グロービス学び放題」アンカリング・フレーミング

 例えば、あらかじめ「10人月くらいかかるので1人月=100万円だとして、1000万円程度の投資が必要」という情報のインプット(=アンカリング)をしておく。そうすることで、「自社で開発をするべきか?」それとも「外部のツールを導入するべきか?」と、適切な意思決定を促すことができる(=フレーミング)。「(5人のチームで)2カ月くらいの開発ですね」で終わるのではなく、「10人月かかるので1000万円ほどの開発ですね」と踏み込んで言ってほしい。

 先ほど、普段からのコミュニケーションの重要性について述べた。普段のコミュニケーションにおいてアンカリングとフレーミングを意識して相手に適切なフレーミングを作ることにより、物事を理想的な方向に進めていくイメージを持てるのではないだろうか。意思決定も変わる上に、自社で本当に開発をしなくてはならないことにフォーカスすることも可能となる。

追求すべきは「ユーザーが求める体験」。チーム一丸となって問い続ける

 ここまで、交渉が妥結する範囲を探りながら調整していくフレームワーク「ZOPAとBATNA」、議論を特定の方向に導くアンカリングとフレーミングなど、議論で使える考え方を語ってきた。

 しかし、これらの交渉の技術は内部調整のためではなく、全てはユーザーのためである。

 マーケティングの世界で古くから使われている格言に「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」というものがある。つまり「この機能が欲しい」というユーザーは、「機能が欲しいのではなく、その機能によって得られる体験が欲しい」のである。ユーザーが欲している体験を実現する方法は、それまで想定していたものと全く別のものであることも想定される。

 せっかくエンジニアが交渉の技術を身につけても、それが顧客のためにならなければ本末転倒である。

 「ユーザーはいったい何を求めているのか?」と問い続けることを忘れないでほしい。プロダクトオーナーと開発チームが一体となって、「ユーザーが何を求めているのか」「どのような機能を通して、ユーザーが求めていることを実現できるのか」を考えていくのが、よりよい解決方法だと考える。

執筆:末永 昌也
グロービス VP of Engineering
東京工業大学情報理工学研究科修了。グロービス経営大学院英語MBAコース修了。I&Gパートナーズ(現アトラエ)入社後、Startup Weekendの世界大会入賞をきっかけに、LOUPEを立ち上げCTOに就任。その後、グロービスに1人目のエンジニアとして入社しプロダクト開発・組織開発を行い、現在VP of Engineeringとして開発統括。

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