山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

ライブコマースで地域おこしを狙う中国の都市

山谷剛史

2020-06-16 07:00

 中国でライブコマースが近年盛り上がっている。ライブコマースは、ライブストリーミングとEコマース(電子商取引)を組み合わせたもので、テレビショッピングのネット版と考えると分かりやすい。中国のEC商戦日の一つである6月18日もまた、ライブコマースが台風の目となる。中国におけるライブコマースの盛り上がりについては既に多くの記事があるため、具体的な様子については省略するが、2019年のセール時から既にライブコマースが目玉サービスとなっていた。

 阿里巴巴(アリババ)が実施した11月11日の商戦日「双十一(独身の日/ダブルイレブンとも)」のデータによると、広東省の省都である広州市はライブコマースのチャンネル数と視聴者数において中国第1位となったそうだ。その広州市のメディア「南方都市報」は同市のライブコマースについて紹介している。

 広州市はライブコマースが盛り上がっている。市内の「美博城」をはじめとした著名な卸売市場では、ライブコマース業者がテナントを借りてさまざまな商品をライブストリーミングで配信しているという。また「中華広場」や「天河城」といった広州を代表するショッピングモールでも、各小売店の店員が店番をしながら、ライブコマースでも販売しているという。広州は食事がおいしいことで知られるが、広州の老舗レストランでもライブコマースで加工食品が飛ぶように売れたという。

 その広州市の政府が3月に入り、ライブコマース産業を後押しする政策「広州市商務局関于印発広州市直播電商発展行動方案(2020~2022年)」を発表した。

 目標としては、2022年までに1つのライブコマース集中産業地区の建設、ライブストリーミングでリーダー企業10社の台頭、100社のMCN(マルチチャンネルネットワーク:ライブ配信者のタレントマネジメントとコンテンツ制作配信をサポートする組織)の育成、1000社のネットトレンドによって人気となるブランド形成、1万人のライバーの育成となっている。その目標のため、政府も後援となってライブコマース産業を盛り上げる。具体的には、組織作りをしたり、業界ルール作りをしたり、ライブコマースに関するフォーラムを開催したり、トレーニング用のオンラインコンテンツを用意したり、関連企業を奨励したりすることを意味する。

 広州市の区の一つである花都区は、ライブコマースで町おこしをするための具体的な施策「広州市花都区直播電商発展扶持方法(2020~2022年)」を発表した。

 数値目標は広州市全体よりも控えめだが、2022年までに中国で10本の指に入るライブコマース基地を花都区内に作り、100のライブコマース示範店を作り、1000人以上のライバーを育成するというもの。地場産業の製品のほか、卸売市場の商品や農業の農産物、越境ECで取り扱う輸入商品を中心にライブコマースで売っていき、目標に向かって政府と企業と業界が手を組んで発展を目指すというものだ。

 同法では奨励金額が明記されている。同区で1000万、2000万、5000万元以上を売り上げるライバーに対して、それぞれ10万、20万、50万元の住宅購入補助を与えるという。
また納税したMCNやライブコマース関連企業に対して10万元、上場企業に1000万元、中国本土外での上場企業には800万元、国や省、市など政府から表彰された企業に最高500万元を奨励金で出すとしている。

 中国南部の広州だけではない。北部の山東省青島市でもライブコマースで町おこしをすべく、「青島市直播電商発展行動方案(2020~2022年)」を発表した。目標は「2022年までに10社の有力なMCNを育成」「100のネット発のブランドを付加させる」「1000人のライブコマースのライバー育成」「中国北方のライブコマースのリーダー的都市にする」といったもの。

 青島市がECサイト大手の拼多多(ピンドゥオドゥオ)と提携を発表したほか、ライブコマース基地を青島に建設し、関連企業を呼び込むとしている。青島市の地場産業である青島ビールや海尔集团(ハイアール)の家電ほか、アパレル、化粧品、マタニティー、食事、宝石などを販売していくとし、パフォーマンスとして青島副市長もライブコマースで販売を行った。

 過去に中国でアルファブロガーブームはあったが、地方政府がバックアップしてインフルエンサーによる経済を後押しすることはこれまでなかった。これが成功するか、次のブームで消えるかは分からないが、輸入商品でも何でもいいから面白いものをライブコマースで販売したいという風潮がある中で、ライブコマース配信者に日本の面白い商品を紹介してもらって、売ってもらうというのもありだろう。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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