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新型コロナを追い風にするオンライン診療の明日

田中克己

2020-06-19 07:00

 新型コロナウイルス感染症がオンライン診療の導入を加速させている。オンライン診療サービス「curon」を提供するMICIN(マイシン)によると、サービスの利用者数が急増している。2020年の1月と4月を比べると、同サービスを利用する新規患者が10倍、アクティブに利用する医療機関が4倍、問い合わせ件数が10倍になったという。

オンライン診療の現状
オンライン診療の現状

 同社の原聖吾社長は「慢性疾患でのニーズはもとより、いままでオンライン診療の対象疾患ではなかった皮膚科や小児科、耳鼻科からの問い合わせが急増した」と語り、2016年4月に提供を開始したcuronの導入施設は3500以上になったという。

MICINの原聖吾社長
MICINの原聖吾社長

 その背景には、初診容認や診療報酬の改定、対象疾病の拡大などオンライン診療に関係する制度改定が新型コロナを契機に大きな変化を遂げたことがある。MICINによると、2015年8月の「遠隔診療に関する厚生労働省の事務連絡」で離島やへき地に限定されていた「遠隔診療」が実質的に解禁される。2018年4⽉には、診療報酬改定で「オンライン診療料」が新設された。2020年2月には、高血圧や糖尿などの慢性疾患から皮膚科や小児科、精神科などに対象疾患が拡大する。初診の容認や診療報酬料も改定される。

 オンライン診療が増えるのは、感染リスクや通院負担の軽減などを求める患者の声の高まりもある。原社長はある医師の「オンライン診療は医療従事者と患者の双方の感染拡大を防止する見えないマスク」との発言を紹介する。

診療から服薬指導、医薬品の配送までオンライン化するMICINの取り組み

 2006年3月に東京大学医学部を卒業したMICIN創業者の原社長は、医師として医療の制度や政策作り、医療ビジネスのコンサルティングなど医療関係に従事してきた。思いは「医療をよくする」ことで、同社の経営ビジョン「すべての人が、納得して生きて、最期を迎えられる世界を」にそれを表す。病院に来た患者は「なぜこんな病気になったのか」と医師に尋ねる。理由を知った患者は「そんな生き方をしなかった」と悔やむ。だからこそ、原社長は「医療をもっと身近なものにし、普段の生活と病気の関係をもっと理解してもらう」ことを可能にするビジネスを考えた。

 その一つがオンライン診療サービスになる。例えば、物理的な理由や精神的な理由から医療機関に足を運ぶことが難しい患者に、自宅にいながら診療を受けられる機会を提供する。治療を続けていれば重症化しなかったのに通院を止めてしまう人に医療へのアクセスを高めるということだろう。医療のクオリティー向上にもつながる。血圧を頻繁に測るなど最適なタイミングでの検査は、患者の容態変化をより早くつかむことに役立つだろう。ただし、さらなる技術進化も求められるという。

 curonは、他のオンライン診療サービスとの差異化も図っている。一つは、医師や患者の使い勝手を向上させること。例えば、この6月には入力必須項目の見直しや直感的に操作すべき内容が分かるようなデザインに変更するなどUI(ユーザーインターフェース)を改善する。2つ目は収益モデルにある。医師が初期費用や月額使用料を負担するものではなく、患者が診療の都度、支払う仕組みにする。3つ目は血圧計など機器(デバイス)との連携のしやすさだという。

 サービス機能の充実化にも力を入れる。2020年5月には薬局向けに「お薬サポート」と呼ぶサービスの提供を開始し、薬局の決済や配送、さらに服薬の指導をオンラインで可能にした。薬局が使った分を支払う。こうしたことで、一つのシステムでオンライン診療から服薬指導、医薬品の配送までを行えるようになるという。

curonのサービス概要図
curonのサービス概要図

 だが、「初診からのオンライン診療は新型コロナによる臨時的なもので、収束後に再び制限される」と懸念の声がある。例えば、オンラインで急な発熱や腹痛をどう診断するのかだ。「対面ならお腹を触ったり、痛みを聞いたり、胸の音を聞いたりするなど五感も使った診療ができる」(原社長)。医師と患者のコミュニケーションも対面とは異なるところがあるだろう。

 そこでMICINは、診療に必要な感覚を補完する機能開発に着手し、早ければ今夏にも内容を公表する。初診オンライン診療を実施する医療機関向けにユーザーガイドも策定した。どんな患者に適するのか、どんなケースにどんなリスクがあるのか、などオンライン診療のユースケース作りにも取り組む。

 MICINはこうしたオンライン診療の課題解決や普及活動を推進する一方、大学や研究機関、企業とAI(人工知能)によるデータ分析を実施し、診療や治療に役立つソリューションの開発を進めている。2020年4月には臨床試験・臨床研究などの医薬品開発を支援する「バーチャル臨床試験システム」を共同開発し、製薬会社などに提供することを発表している。医師はPCを、患者はスマートフォンを使って、オンラインで予約から問診、診察、請求、決済などを実現したオンライン診療サービスは、どんな進化を遂げるのだろう。MICINの事業展開に注目する。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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