企業が目指すべき文書管理への行程--現状を把握して整理するだけで30%削減

難波孝 (クニエ)

2020-06-29 07:00

 本連載では、企業の文書管理に関して、紙文書や文書管理システムの現状、それに伴う問題点やリスクを整理してきた。

 最終回となる今回はそれらを踏まえて企業が目指すべき文書管理について解説するが、まず結論を述べておく。文書管理で最も重要なこと、それは「原本性」と「検索性」の確保に他ならない。過去にも繰り返し述べてきたので、しつこいように感じられるかもしれないが、この重要項目のうち片方どころかどちらも実現できていない企業がきわめて多い。

 事実、原本性と検索性がユーザーに担保できなければ、それは「文書管理」ではなく、ただの「文書保管」である。あなたの会社は文書保管になっていないだろうか?

 保管とは今の文書の状態を維持することに重点を置き、管理とは今の文書の状態が適切かどうかに重点を置くことである。保管は文書の中身を知らなくてもできるが、管理は中身を把握していなければできない。今回は文書を保管するのではなく、管理するために企業がすべきことを解説する。

1.まずは紙の電子化に取り組む

 文書管理に関する責任者や担当者の選定、目的の決定、スケジュールの作成をした後、一番初めに取り組むべきは紙文書の電子化、つまりペーパレス化である。普段使っている複合機などでスキャンしているからすぐにできる、と甘く見てはいけない。

 紙文書の電子化には、事前の規定やルールの整理を含め、相当なノウハウと時間を要するからである。

 紙文書の電子化時に実施すべき主な内容は下の通りとなる。

  • 文書管理規定やルールの見直し(第1回参照)
  • 法的エビデンスや原本となりえるプロトコルを順守したペーパースキャン(第3回参照)
  • 電子化データの検索性付与
  •  紙文書を複合機で電子化した場合、PDFのファイル名称は英数文字で構成されるが、そのままサーバーや文書管理システムに格納しただけでは検索できるわけがない。紙文書と違い電子データは目視ができないことを理解し、ファイル名の規則統一や、属性を適切に付与しなければならない。なお、属性については、Dublin Core Metadata Initiativeが制定したメタデータ記述の標準仕様である「ダブリンコア」などを参考にしてほしい。

     上記の手順で電子化すれば、原本性が確保された電子データが作成されるため、法的に紙で残しておく必要がある文書以外、元の紙文書は廃棄することが望ましい。そうすれば、この時点で会社の紙文書はほとんどなくなり、倉庫などのスペースコストや紙文書を探していた時間が大幅に削減される。また、紙運用が障壁となっていたリモートワークも可能となる。そうなれば紙文書の電子化にかかった時間とコストは容易に回収できるだろう。

    2.電子データの整理は現状把握から

     膨大な量のファイルサーバーや文書管理システムから欲しい文書を見つけることは容易ではない。なぜなら同じファイル名の文書がさまざまなフォルダに点在していたり、ファイル名で使用されがちな「最新版」の乱用など、検索を阻害する要素が山のように存在する。事実、契約書を検索しようとしたら作成途中も合わせて数千件出てきたなんてこともよく聞く話である。

     解決策としては、現状のファイルサーバーや文書管理システム内の文書の現状を把握(アセスメント)することから始まる。最近ではアセスメントツールを提供するベンダーもあり、使用すると容易にファイルサーバー内の現状が可視化でき便利である。アセスメントで可視化すべき事項は概ね次のとおりである。

  • 重複ファイルの抽出
  • 長期未更新ファイルの抽出
  • フォルダ階層に関するルールや順守状況
  • 権限管理の合理性
  • アクセス管理
  • ライフサイクル管理の有効性
  • 文書管理規定との整合性
  •  こうしてアセスメントで可視化された結果をもとに、重複ファイルや長期未更新ファイルの削除、フォルダの構造化、ファイル名やフォルダ名ルールの統一などを行う。

     ちなみに一概には言えないが、筆者の経験として、重複ファイルと長期未更新ファイルを削除しただけで30%の文書を削減できた例もある。

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