本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、日本IBM代表取締役社長の山口明夫氏と、Dropbox Japan代表取締役社長の五十嵐光喜氏の発言を紹介する。
「パブリッククラウドを業界別に作り込んでいくかは分からない」
(日本IBM代表取締役社長の山口明夫氏)
日本IBM代表取締役社長の山口明夫氏
日本IBMは先頃、金融業界向けのデジタル変革(DX)を推進する「オープン・ソーシング戦略フレームワーク」を発表した。その基盤として「金融サービス向けパブリッククラウド」を掲げていることから、発表会見をオンライン形式で行った山口氏に「今後はパブリッククラウドを業界別に作り込んでいくのか」を聞いたところ、返ってきたのが冒頭の発言である。本連載のテーマである「明言」ではないが、IBMの今後のパブリッククラウド戦略を垣間見た気がしたので、山口氏の返答を記しながら考察したい。
金融サービス向けオープン・ソーシング戦略フレームワークは図の通り、5つのコンポーネントで構成される。発表内容の詳細については関連記事をご覧いただくとして、筆者が注目したのはこのうちの1つである金融サービス向けパブリッククラウドだ。これを見て思い浮かんだのは、今後、IBMはこうしたDX推進のフレームワークの基盤となるパブリッククラウドを、業界別に作り込んでいくのではないか、ということだ。
金融サービス向けオープン・ソーシング戦略フレームワーク(出典:日本IBMの資料)
これはすなわち、IBMの今後のパブリッククラウド戦略を問うていることになる。山口氏の回答は、以下のようなものだった。
「金融サービス業界のシステム基盤には、業界特有のセキュリティやコンプライアンスの順守、さらに回復力が求められる。IBMでは、金融サービス業界の方々にパブリッククラウドの利用を促進していただくために、こうした要件を備えた金融サービス向けパブリッククラウドを提供することにした」
そして、筆者の質問の核心部分についてこう答えた。
「他の業界について、パブリッククラウドを個別に作り込んでいくかは分からない。が、これまでお客さまと協業して構築してきた製造業のスマートファクトリーや医療業界の電子カルテなど汎用性の高いシステムを『アズ・ア・サービス』で利用できる業界プラットフォームとして展開していきたいと考えている」
結局、質問の核心部分については「分からない」と明言を避けられてしまったが、パブリッククラウド戦略の一端が垣間見えたのではないか。つまり、Amazon Web Servuces(AWS)やMicrosoft Azureといったメガパブリッククラウドと同じ土俵ではなく、特定の領域ごとにIBMのパブリッククラウド「IBM Cloud」を生かしていこうという考えのようだ。
その意思表示の表れが、今回の金融サービス向けパブリッククラウドという表現に見て取れる。それは取りも直さず、IBMはパブリッククラウドをやり続けるというメッセージである。