この10年間で、最高情報責任者(CIO)が企業の中で意思決定に果たす役割は拡大した。これはCIOが、トップダウンで進めるデジタルトランスフォーメーション(DX)によって、組織の柔軟性と目的遂行能力を高められることを証明してきたからだ。
しかしこの数カ月間に起こった出来事は、IT担当役員にまったく新たな課題を突きつけている。新型コロナウイルスの感染拡大への対応の中で、IT部門の責任を果たすためには、従来の運用業務では決して経験することがなかった、集中的な取り組みが必要とされたからだ。
ITリーダーは、安全なリモートワークを実現できる戦略を数日間で立案しなければならなかったが(しかも、使えたのは手元にある機材だけということもしばしばあった)、多くの場合それに成功した。
そのような対応が迅速に行われたことを考えれば、新型コロナウイルスの感染拡大が、テクノロジー支出の水準や内訳と、IT担当役員の役割の両方に対して直ちに影響を与えることも、その影響が今後も続いていくことも明らかだ。
CIOは、危機的な状況下でもビジネスを継続させられる能力を備えていることを証明したが、今や彼らは、長期的な価値を示すことを求められている。そして、それを実現すれば、今後のITリーダーの役割は恒久的に変わるだろう。
このトレンドは、Deloitteが最近発表した、優れたCIOが持つ資質を明らかにした調査レポート「2020 Global Technology Leadership Study」で示されたものだ。Deloitteは、新型コロナウイルス以降の世界では、「先端的」な企業のCIOが、企業のレジリエンス、事業再開、成長に関する戦略を策定するにあたって重要な役割を果たすと述べている。(レポートでは、調査した企業をビジョンや戦略、IT部門の成熟度、市場でのリーダーシップの3つの分野で評価し、もっとも優れていた11.6%の企業を「先端的」な企業に分類している)
DeloitteのマネージングディレクターKhalid Kark氏は、「新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの対面での事業活動を中断させたが、その一方で、デジタル技術の導入やデジタル活用能力の習得を加速させ、それによって企業は、俊敏性やレジリエンスを維持することができた」と述べている。
今のCIOの仕事は、リモートワークを続ける人を、導入したテクノロジーで支えていくことだ。また今後は、従業員がオフィスに復帰するに従って、対人距離を確保できるオフィス空間を作る手助けを期待されるだろう。
しかしそれ以上に、ITリーダーには、企業がポスト新型コロナウイルスの世界を切り抜け、成功していくのをテクノロジーによって支えることが求められる。Deloitteの調査では、企業の幹部役員に対して、向こう3年の間に成功を収めるCIOが備えていると考えられる資質のキーワードを尋ねている。その結果、回答者の大半(69%)が、「改革」「ビジョン」「イノベーション」などの、変革を起こす能力につながる言葉を挙げた。
そうした大きな目標を達成することは簡単ではない。まず、予算が制約されている。最近のPwCの調査では、最高財務責任者(CFO)の半数以上が、テクノロジー支出は今後、今よりも精査されるようになると考えていることが明らかになった。また調査会社のIDCは、世界のIT支出は2020年に5.1%減少すると予想している。
CIOの間では、企業が新型コロナウイルスからの回復を目指し始めたことで、予算が増えるのではないかとの期待がある。IDCによれば、今のCIOには、組織を守り、2020年の不況を乗り切り、不況後の再成長に備えるための正しい技術を選ぶことが求められている。