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顧客志向で切り拓くCOVID-19時代の変革ジャーニー

COVID-19の影響に伴う消費者の行動変容における不可逆な「ニューノーマル」とは? - (page 3)

武藤隆是,川上晶子,文山拓也,和田美樹 (PwCコンサルティング)

2020-06-29 06:00

不可逆な消費者行動変容対応の要諦(KSF)

 このような不可逆の消費者行動の変容に対して、企業はどのように対応していけばよいのだろうか。その対応の要諦を、具体的な企業の事例を交えつつ紹介したい。

図4.不可逆な消費者の行動変容対応へのKSF(キーサクセスファクター)
図4.不可逆な消費者の行動変容対応へのKSF(キーサクセスファクター)

1.ブランド突出性:オンライン競争では、これまで以上に「勝てる」ブランドへのフォーカスが必要

 オンラインモールではリアル店舗と違い、とりあえず棚に置いてもらえれば消費者の目に入るということはなく、検索結果のファーストビューに入れるかどうかで勝敗が大きく決まる。消費者が熱心に見てくれるのは3番目の商品までだろう。それ以下のブランドは消費者から見向きもされず、はっきりと明暗が分かれるようになる。これは、ブランドが属する商品カテゴリーにおいてTop3に入らなければならないということを意味する。こういった状況下では、これまで以上に強いブランドを作っていかなければならない。数あるブランドに対して満遍なく投資していくのではなく、育てるべきブランドと捨てるべきブランドを見極めながらブランドポートフォリオを再考していかなければならない。

 NIKEでは、自社EC、店舗、アプリなどを連携・活用し、戦略的に卸売ビジネスからオンラインを中心としたD2C(メーカー直販)ビジネスにシフトさせて、消費者とのこれまで以上に密な関係性の構築を推し進めた。直販の強化と並行して、パートナーシップも見直し、リテーラーの中でも数十社を戦略的パートナーとして絞りこんだ。マーケティングや限定商品といった資本を戦略的パートナーに集中し、パートナーは売り場内にブランド専用のスペースを作るという連携を行い、ブランドパワーの強化を行ってきた。このように、ブランドが主体となり、「強いブランド」となるための戦略的な取り組みが急がれる。

2.エクスペリエンスバリュー:ブランドの世界観をオンライン/オフラインで体験してもらい、購入へ

 NIKEは、EC・アプリ・店舗をうまく融合させた体験を顧客に提供している。アプリにはオンラインショッピング機能の他に「ストアモード」があり、実際に店舗を訪れた際にはアプリをストアモードに切り替えることで、店内の商品情報の参照や在庫検索、決済までを全てデジタルで行うことができる。店舗に在庫がなくてもアプリ内でオンラインショッピングに切り替え可能なので機会をロスすることがない。デジタルで可能なことは全てデジタル化している一方で、店舗ならではの価値も提供している。店舗ではシューズやアパレルのカスタマイズやスポーツに関する相談ができ、自動販売機でプチギフトまでもらえる。

 NIKEは“Proactive”(先を見越す)という価値観のもと、長期戦略の一つとして「イノベーションの影響力」を掲げており、イノベーティブで先進的なブランドであることを目指している。NIKEのデジタル体験や店舗体験は、まさにこのブランドの世界観を示すように、どこよりも先進的であろうとしている。このように、各チャネルにおいてブランドの世界観を体現した顧客体験を設計することが肝要である。

3.顧客エンゲージメント

  • 購入してくれた顧客とのつながりを強化し、LTV(ライフタイムバリュー)を最大化
  • “個客”に向けてパーソナライズされたサービスを提供
  • 意識すべきは「購入」と「継続」の2つのタイミング

 エクスペリエンスバリューを維持するためには、顧客と継続的なつながりを持ち、満足度の維持向上に努めていくことが重要だ。顧客からは、これまで以上のきめ細やかなサービス提供が求められている。その際、これまでの接触履歴からの個人の行動や好みを踏まえた、パーソナライズされた体験を提供することで、顧客のエンゲージメントは高まっていく。特にオンラインでは、各チャネルでの顧客行動履歴を分析し、それを商品、価格、プロモーション設計に活用していくことの重要性が上がる。これまでよりも具体的で突出性のあるメッセージをデジタルで継続的に発信することで「記憶に残り続ける」存在となり、個人の好みに沿った商品やブランドが既に選択された状態で推奨表示される。興味を持った商品に対してはダイナミックプライシングを行うなど、リアルタイムに変動する顧客の心理に寄り添った形で体験を提供していくことが重要だ。

 顧客のニーズという観点からは、前章で上述した通り、デジタル/サブスクリプションモデルへの需要加速の流れがある。企業はサービスモデル自体をデジタル化、サブスク化することで、顧客のニーズにマッチした製品を提供することができ、かつ企業としての収益の安定化も期待できる。

 今回の状況下でも、サブスクリプションビジネスはそのモデルの堅牢さを証明した。Zuoraが発行した「COVID-19 Subscription Impact Report」によると、サブスクリプションビジネスにおいて、全体の75%の企業が加入者獲得率に大きな影響を受けていないか、むしろ顧客獲得ができている。

 サブスクリプションビジネスにおいては、「1.購入してもらう」「2.継続してもらう」というポイントにおいて2回、消費者から選択される必要がある。COVID-19後は、これまで店舗のような特定の場所に行かなければできなかった体験を自宅でも、という価値提供が時代にマッチする。

 例えば、キリンが提供する「KIRIN HOME Tap」は、作り立ての新鮮な生ビールを工場から家庭へ直送するサービスだ。利用者は専用のビールサーバーを家庭に設置し、毎月届く「一番搾りプレミアム」をサーバーから注いで楽しむことができる。この銘柄は、通常はギフトや一部の飲食店でしか飲めない銘柄で、加えて期間限定のクラフトビールも味わうこともできる。店舗の付加価値であった作り立てのおいしさが自宅で味わえるとあって、会員の満足率は96.4%と非常に高い。サービス購入をきっかけに、ホームパーティーや夫婦の対話の時間が増えたという声も聞かれ、サブスクのサービスを通じて「自宅でおいしいお酒と会話を楽しむ場」が創出された好例だ。顧客のLTVを最大化するために、どのような価値や体験をブランドが提供すべきか、長期的な観点でもって顧客とのエンゲージメント構築に取り組むことが重要だ。

最後に

 今回は、COVID-19を経た後の消費者の価値変容と、それを踏まえたデジタル/リアル全体での体験の設計の要点について顧客体験(CX)・マーケティングデザインの観点から共有させていただいた。本記事中でも、顧客との「つながり」を維持・継続し、LTVを最大化していくことの重要性については触れたが、次回はセールス・カスタマーサクセスの観点から、今後の営業のあり方、顧客との継続的な関係性構築の方法論について紹介したい。

武藤隆是(Takayuki Muto)
PwCコンサルティング パートナー Business Transformation Unit Transformation Service, Experience Team Lead / Customer Transformation, CX & Marketing Lead
大手ハイテク、外資系コンサルティング会社などを経てPwCコンサルティングに入社。マーケットトレンド・デジタルテクノロジーへの知見を軸とし、DX戦略、CX/コミュニケーション戦略・デジタル組織の立上げなど、Digital Transformationにおけるリーダーシップを一貫して追求している。
川上晶子(Akiko Kawakami)
PwCコンサルティング シニアマネジャー Business Transformation Unit Insight Development and Thought Leadership team
外資系ITリサーチ会社、外資系マーケティングリサーチ会社、外資系コンサルティング会社などを経てPwCコンサルティングに入社。Digital・CX視点でのリサーチ・業界動向分析・データアナリティクスを軸としたインサイト開発やThought Leadership活動を推進。
文山拓也(Takuya Fumiyama)
PwCコンサルティング シニアマネージャー Business Transformation Unit, Transformation Service, Customer Experience Lead, Customer Transformation, Customer Experience Lead
メガベンチャー、外資系コンサルティング会社などを経てPwCコンサルティングに入社。顧客志向の経営モデル改革、ビジネス/サービスデザイン、カスタマーエクスペリエンス、マーケティングなどを専門として、豊富なコンサルティング実績を有する。
和田美樹(Wada Miki)
PwCコンサルティング シニアアソシエイト Business Transformation Unit, - Customer Transformation CX & Marketing Team
カスタマージャーニーの全体設計や、CRM/デジタル戦略を基軸にサービス・セールス・マーケティングの各領域に関するコンサルティング経験を有する。商社、製薬、小売、通信、教育など数多くの業種業態における支援業績を持ち、戦略・業務・ITの変革に関する幅広い領域をカバーしている。

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