レッドハットは6月23日、2021年度(2021年2月期)の事業戦略を発表した。近年の中核方針とする「オープンハイブリッド戦略」を基本に、日本企業のデジタル変革(DX)を支援すべくOpenShiftなどコンテナー関連ソリューションなどに注力するとしている。
オンライン記者会見で事業戦略を発表したレッドハット 代表取締役社長の望月弘一氏
同日開催のオンライン記者会見で代表取締役社長の望月弘一氏は、オープンハイブリッド戦略の現状について、2020年度までのハイブリッドクラウドの「実践」という段階から今後は「推進」の段階に入るとの見方を示した。
直近の四半期業績(2020年1~3月)は、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)が売上高24%増になるなどインフラ領域の製品が2桁増で好調に推移したほか、OpenShiftやAnsibleなどアプリケーション開発/先進技術分野でも約40%増となった。特にコンテナーは、IBMとの協業効果によりグローバルでの採用が2200社を超える好調ぶりで、望月氏によれば日本も同様の傾向にあるとしている。
この1年では、RHEL 8やOpenShift 4など中核製品のメージャーアップデートが続き、DXにまつわる顧客の大型導入事例も多数に上ったという。中でもコンテナーは国内企業の間で本格的な導入段階に入りつつあるとし、パートナーと協業によるマネージドサービスの拡充を進めた。また、OpenStackも楽天モバイルなど通信事業者における採用が広がっているとする。アプリケーションについても同社のミドルウェア製品群とOpenShiftを組み合わせたDevOpsの推進やコンテナーの導入が進んでおり、運用管理の領域ではAnsibleの利用が広がっているという。「1万ノードを超える環境を全体最適化する導入事例も出現している」(望月氏)
事業戦略の全体方針
2021年度の事業方針として望月氏は、顧客企業にとってDXやITインフラおよびアプリケーションの“近代化”が引き続き重要なテーマだと述べた。同社の調査によれば、企業の62%はハイブリッドクラウドやマルチクラウドを採用し、74%が“近代化”を重要テーマに位置付けている。
その観点でもコンテナーは、「最も注目すべきものであり、コンテナーへの移行とアプリケーションをコンテナーで配備する動きが拡大しており、ブームといえる」(望月氏)という状況にある。先の調査では今後2年間にアプリケーションの1割以上をコンテナー化する企業が80%に達し、うち5割以上のアプリケーションをコンテナー化する企業は28%に上る。コンテナーの配備先としても、2019年度の調査ではプライベートクラウドはパブリッククラウドの半数強だったが、2022年度には同程度にまで高まる見通しだとしている。望月氏は、「この先はハイブリッド/マルチクラウドにまたがるコンテナー環境をどう一元管理するかが課題になるため、(レッドハットの)オープンハイブリッド戦略は必然的なもの」と述べた。
こうした状況を踏まえ、2021年度の事業戦略は「オープンハイブリッドクラウドでお客さまDXの成功に貢献する」をスローガンに掲げ、(1)一貫性のあるハイブリッドITインフラ、(2)クラウドネイティブなアプリケーション開発、(3)運用管理の自動化――の融合に向けた取り組みを展開していく。
インフラ領域では、REHLやOpenShift、OpenStackの一貫性を追求するとし、とりわけコンテナーに関しては、「国内企業での導入規模を倍増させると同時に、導入企業内でのユーザー数も増やしていく」(望月氏)という。ユーザーの運用を支援する観点からマネージドサービスを拡充し、SAP HANAやMicrosoft SQL Server、IBM Xといった新たなワークロードでの利用拡大を推進する。通信市場に対しても5G(第5世代移動体通信システム)などの拡大を視野に、ネットワーク機能仮想化(NFV)技術を活用するネットワークインフラの刷新を訴求する。
ITインフラ領域における戦略
ここで望月氏は、ユーザーに対する選択肢の広がりが重要だとも述べ、マネージドサービスでは同社が提供する「Red Hat OpenShift Dedicated」や、MicrosoftやAmazon Web Services(AWS)、IBMと連携して提供するオンデマンド型サービスとともに、マネージドサービスを新たに提供するパートナーの拡大にも取り組む。ユーザー自身による運用管理(セルフサービスマネージド)と合わせ、柔軟に選べるようにしていくとした。
アプリケーション領域では、アジャイル開発/DevOpsの拡大を受け、OpenShift ServerlessやQUARKUSによるJavaの活用促進、Kafka on OpenShiftといったデータ連携ソリューションなどを推進する。望月氏は、「アプリケーション開発に必要なコンテナーとミドルウェアの双方を提供できる点がレッドハットの差別化になる」と優位性を強調し、「Red Hat Universal Base Image」を無償提供する施策がこの領域における国内パートナーの拡大にもつながっていると述べた。
アプリケーション領域における戦略
運用管理の自動化についてもAnsibleなどの活用による「自動化 2.0」をキーワードに掲げ、IT環境全体の最適化を促進する方向性を示す。「Red Hat Advanced Cluster Management for Kubernetes」によりマルチクラウドの大規模なインスタンス群を包括管理できるメリットもアピールする。
運用管理領域における戦略
望月氏はこうしたテクノロジー面に加え、顧客企業がDXを推進していくための“文化”の変革も大切だとし、IT環境の“近代化”やアジャイル開発/DevOpsなどを定着化させていくためにコンサルティングメニューの拡充やコンサルタントの増員も図るとした。「顧客とともに“文化”を変えていけるよう、あるべき姿を描き、カスタマージャニーを重視していく」(同氏)という。
テクノロジーだけでなく組織“文化”からもDX推進を支援する
記者会見では、パートナーのアクセンチュア、NTTデータ、野村総合研究所(NRI)も新たな施策を発表した。
アクセンチュアは、金融業界のDXとして提供する「Accenture Connected Technology Solution(ACTS)」でOpenShiftとの連携を拡大させていく。OpenShift上でACTSを利用できるようにするほか、Microsoft AzureとOpenShiftを組み合わせた利用、さらに今後は同社の「Application Modernization & Optimization」とOpenShiftを利用してメインフレームなどのレガシーシステムを“近代化”させていくソリューションを正式リリースしていくという。
NTTデータは、アプリケーションやITインフラ、クラウドの各領域でレッドハットとさまざまに協業しているが、7月からは金融向けに提供するオープンミッションクリティカルのDENTRANSサービスでOpenShiftによるコンテナーを利用したサービスを開始する。
NRIは、新たにレッドハットとDX人材の育成プログラムを開発し、企業への提供を開始する。DXでは、IT部門と事業部門の連携が重要であるとし、業務に知見の深いNRIとレッドハットのテクノロジーの知見を組み合わせることで、企業全体でのDX文化の醸成を支援していく。
パートナー各社の施策