マイクロソフトとTIS、「ヘルスケア リファレンス アーキテクチャー」を発表

阿久津良和

2020-07-09 06:00

 日本マイクロソフトとTISは7月8日、ヘルスケア業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を目的に連携すると発表した。両社で「ヘルスケア リファレンス アーキテクチャー」をパートナー企業に無償提供するほか、技術者育成プログラムの実施やヘルスケア業界のPoC(概念実証)を推進するための「PHR(Personal Health Record:個人健康記録)POCテンプレート」も提供する。

 同日の記者会見で日本マイクロソフト業務執行役員 医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘氏は、ヘルスケア業界のDXについて、「(診療結果やバイタルデータなどは)価値があるデータながら統合、分析が進んでいない」と指摘した。今回の取り組みでは、業界・学会側が求める標準化ガイドラインなどに準拠し、「FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources:迅速な医療相互運用性資源) HL7(Health Level 7)」の標準形式データに対応する「Azure API for FHIR」を 9月からAzureの日本リージョンで提供する。これにより「日本のガラパゴス化に閉じない」(同氏)と説明した。

日本マイクロソフト 業務執行役員 医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘氏
日本マイクロソフト 業務執行役員 医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘氏

 日本マイクロソフトは、これまで自動車や製造・資源、金融、メディア・通信、流通・消費財、運輸・サービス、ゲーミングの各業界に注力し、公共分野での注力先としては政府・自治体、教育、ヘルスケアを掲げている。過去に製造や流通などのDXを推進するため、Microsoft Azureの各機能を定型化したリファレンスアーキテクチャーを無償提供してきた。今回の発表はそれに続くヘルスケア業界に特化したリファレンスアーキテクチャーになる。

 米国ではMicrosoftが5月に、ヘルスケア業界に特化したクラウドサービス「 Microsoft Cloud for Healthcare」を発表している。同サービスは、Microsoft Healthcare Bot Serviceを用いて患者との関係構築、強化を図り、Microsoft 365およびMicrosoft Teamsを活用した医療チームの共同作業の支援、Power Appsによる業務データと臨床データの分析強化を目指している。今回発表された両社の取り組みは、同サービスに含まれるAzure API for FHIRの活用やヘルスケアパートナーのエコシステムの構築を目的にしている。

 また、ウェアラブルデバイスを用いて健康状態をデータ化したり、特定疾患や治療結果などを登録するモバイルアプリを活用したりするなどの取り組みも進む。最近では行政によってアプリ化が推進されているが、薬手帳や母子健康手帳といった紙ベースの情報もあり、ここでもデータのサイロ化が発生している。

 会見ではその一例として九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンター長の中島直樹教授が、「電子カルテもSS-MIX2(厚生労働省電子的診療情報交換推進事業)で病名や薬剤名、検査結果などは構造化されているものの、(医師がカルテに所見などを記述する)フリーテキストは医師によって語彙(い)が大きく異なり、(結果的に)二次利用されていない。PHRは最初に標準化を整備し、そこから生まれる製品・サービスにつなげるのが重要だ」と指摘し、取り組みへの期待を語った。

九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンター センター長の中島直樹教授
九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンター センター長の中島直樹教授

 ヘルスケア リファレンス アーキテクチャーは、他業種のリファレンスアーキテクチャーと同様に、利用者のシナリオに沿った「業務ファンクションマップ」、各種サービスの実装や運用をまとめた「アーキテクチャーマップ」、PHRサービス開発を容易にする「サンプルプログラム」の3要素で構成される。サンプルプログラムでは同日、糖尿病を例にしたコードを公開した。技術者育成プログラムではオンライン型セミナーや座学、ハンズオン、案件ベースでの内製化支援などを行う。主にパートナー技術者を対象にしているが、「医療機関からも問い合わせをいただき、エンドユーザーへの適用も検討中」(大山氏)という。

 さらに今回の取り組みは、臨床関連6学会(日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本動脈硬化学会、日本腎臓学会、日本臨床検査医学会、日本医療情報学会)による「生活習慣病コア項目セット集(第2版)」および「生活習慣病自己管理項目セット集(第2版)」や、経済産業省の「健康情報等交換規約定義書」を参照したサンプルプログラムを通じて、PHRの標準化に取り組む。中島教授は、「ルールを作らなければPHRは立ち行かない。ユースケースの検討とミニマム項目セットの作成が必要だ。例えば、任意の事業者がルールに沿わず、データベースを構築しても、利用者はサービスを乗り換えることが難しい。(標準化したPHRであれば)独自データベースも不要で、事業者の競争原理が働き、高品質なサービスやデータの二次利用につながる」と相互運用の重要性を指摘した。

 マイクロソフトの大山氏は、ヘルスケア リファレンス アーキテクチャーの活用例として、「IOMT(Internet of Medical Things) FIRE Connector」を通じて医療用IoTデバイスとの連携が可能だと説明する。

TISの協力を得て日本マイクロソフトが作成した「ヘルスケア リファレンス アーキテクチャー」
TISの協力を得て日本マイクロソフトが作成した「ヘルスケア リファレンス アーキテクチャー」

 なお多業種に展開するTISは、ヘルスケア領域では地域医療ネットワーク支援を目的に患者と医療従事者が双方向につながる「ヘルスケアパスポート(仮称、9月開始予定)」や、健康支援を目的に必要な運動、睡眠などに関連するヘルスケア商品のキャンペーンを提供するサービス「ケアチョイス」などを展開している。

 今回の取り組みでは、パートナー企業などがPHRを用いたPoCの展開を支援する「PHR POC テンプレート」を用意した。体温計や血圧計の4社14機種(今後は19社34機種に拡張予定)に対応済みのインターフェースやデータモデルを定義し、「収集したPHRデータの管理や活用につながる」(TIS 執行役員 サービス事業統括本部 ヘルスケアビジネスユニット ジェネラルマネージャー 伊藤浩人氏)としている。ビジネスメリットについても、「医療費抑制にもつながり、自治体や各企業から利用料金をいただけると考えている」(同氏)という。

TIS 執行役員 サービス事業統括本部 ヘルスケアビジネスユニット ジェネラルマネージャーの伊藤浩人氏
TIS 執行役員 サービス事業統括本部 ヘルスケアビジネスユニット ジェネラルマネージャーの伊藤浩人氏

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