1969年7月20日の「アポロ11号」月面着陸は、宇宙開発史における画期的な瞬間だった。だがもし、この月へのミッションで宇宙飛行士たちが事故死していたとしたら、そして、この悲報をRichard Nixon大統領(当時)がテレビのニュースで米国の視聴者に伝えなければならかったとしたら?
MITが作成したディープフェイク動画
提供:Bonnie Burton/CNET
このほど公開された、不安になるほどリアルなディープフェイク動画の中で、Nixon大統領は米航空宇宙局(NASA)のミッションが失敗して宇宙飛行士たちが死亡したと告げる。ディープフェイクは人工知能(AI)を応用した捏造動画を意味し、映像を加工することで、実際にはやっていないことをやったように、言っていないことを言ったように見せることができる。ディープフェイク用ソフトウェアの登場によって高度に改変された動画が出回るようになり、偽物だと見抜くのがますます困難になってきた。
Nixon大統領はディープフェイク動画の中で、Neil Armstrong氏とBuzz Aldrin氏に言及し、「運命の定めにより、平和的な探査のため月に向かった彼らは、月にとどまり安らかに眠るだろう」と語る。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のAI専門家チームは半年をかけて、この非常に説得力のある7分間のディープフェイク動画を作成した。NASAの実際の記録映像に、悲報を伝えるNixon大統領を組み合わせることで、まるでアポロ11号が月面着陸のミッションに失敗したかのような印象を与える。
Nixon大統領の声と顔の動きに説得力を持たせるため、AIの深層学習技術が使われた。事故発生時用の演説原稿(当時実際に用意されたもので、国立公文書館のサイト内で閲覧できる)は、俳優が読み上げた。
MITのCenter for Advanced Virtualityがこの新プロジェクト「In Event of Moon Disaster」を立ち上げたのは、疑うことを知らない大衆にディープフェイク動画が及ぼし得る危険な影響を周知させるためだ。
このNixon大統領とアポロ11号のディープフェイク動画が完全な形で一般公開されるのは、2019年秋にMITで展示されたインスタレーション以来となる。
In Event of Moon Disasterの目的は、単にディープフェイクに関する理解を深めることだけではなく、どのようにディープフェイク動画が作られているのか、どうやってディープフェイクを見分けるのか、さらに活用や悪用の可能性を説明することだ。
このプロジェクトは、Mozillaの「Creative Media Awards」の助成金を得ている。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。