新型コロナウイルス感染症のパンデミックが拡大した3月以降、世界中の企業がオフィスからテレワークへのシフトを進めた。日本でも緊急事態宣言を契機にテレワークにシフトする企業が増えてはいるが、部分的にオフィスへの出社に戻す動きもある。否応なしのテレワークシフトを経て企業は新しい働き方にどう対応していけばよいか。JiraやTrello、Confluenceといったコラボレーションツールを展開するAtlassian 最高マーケティング責任者のRobert Chatwani氏にそのポイントを聞いた。
Atlassian 最高マーケティング責任者のRobert Chatwani氏
Chatwani氏が指摘するのは、パンデミック以前の社員がオフィスに集合して働くスタイルから、社員がそれぞれの自宅あるいは近隣のシェアオフィス、カフェなど分散して働くというスタイルへの変化だ。多くの企業にとってその契機はパンデミックかもしれないが、国内でも数年前から働き方改革が叫ばれていたように、実際には新しい働き方にしていくこと自体がここ数年来の流れだったと言える。
「パンデミックで新しい働き方にしなければならないというより、数年をかけて新しい働き方にしていく流れが、パンデミックで数カ月のうちにしなければならなくなったということ。つまり、パンデミックが収束して元の働き方に戻るという動きではない」
Chatwani氏によれば、働き方の変化は端的に言うと集中から分散になる。これにより、オフィスに人が集合し連携して効率的にビジネスを進めて行けなくなった。社員は物理的に離れた場所から“仮想的に”集合し連携して効率的にビジネスを進めて行かなければならない。同社の提供するようなコラボレーションツールが、社員の仮想的な集合、連携を実現していく手段になるが、ツールを導入すれば簡単に済むわけではない。
テレワークシフトに迫られた企業からAtlassianへの問い合わせ内容をChatwani氏に尋ねると、ツールの導入相談よりも社員がバラバラになった状況でどう働いていけば良いのかという根本的な悩みが多いという。
「パンデミック以前のユーザーの関心は、主にオフィスを前提にしてミッションクリティカルな業務をどう安全にコラボレーションできるようにしていくかだった。それが物理的に不可能となり、パンデミックの中でスピード感も伴って対応しないといけない。前例のない中でツールをどう使えばいいか、そもそもどうコラボレーションしていけばいいかが分からないという声が多い」
スピード感という点では、急激な変化の中で対応しているユーザーもいる。Chatwani氏によれば、医療機関ではパンデミックに対処してくれるボランティアのためにツールを導入して業務を継続し、大手ソフトウェア開発会社ではリモートからオンライン上で共同開発する仕組みを整備した。社員数10万人規模という米国の企業が短期間でテレワークシフトしたケースもあるという。
ただ、先述のようにオフィスへの出社に回帰する動きが一部にある。その理由で聞かれるのは、業務プロセスや業務フローがオフィス環境を前提に構築され、テレワークの働き方にはそぐわないというもの。コラボレーションができず仕事が回らないので、元の働き方に戻す。コラボレーションツールを活用するといった以前の課題がそこにある。
Chatwani氏は、新しい働き方への変化が不可逆的だと見る。そのためテレワークのような新しい働き方の価値を見いだし、意識を変えなければ対応は難しいと指摘する。
「オフィスの働き方は縦割りの組織構造で部門を超えるコラボレーションはフェースツーフェースだった。ビジネスも確度の高い予測をベースにした。それがオンラインベースになると、組織構造がフラットになり、コラボレーションはオープンなチーム型になり、ビジネスも目まぐるしい変化に対処していくようになった。その中で発見される価値とは、従来構造に縛られない柔軟性やスピード感、アジャイル、回復力といったものであり、成長につながる斬新なアイデアの創出もある。そうした価値に重きを置く意識へと変えていけるかがポイントだろう」
パンデミック以前からこうした価値を見いだし意識を変えている企業は、パンデミックで働き方がさらに変わっても対応しているという。日本では、ヤフーが10年前からAtlassianのConfluenceを利用してさまざまな情報を共有・活用していた。同社は10月1日からの「無制限リモートワーク」の導入を表明したが、その土台には、こうした働き方による価値観の定着があるようだ。
Chatwani氏は、コラボレーションツールからの面からも新しい働き方を促すべく、ワークフローの自動化や機能の強化、SlackやDropbox、Zoomなどサードパーティーツールとの接続性の向上に取り組んでいると話す。また、マーケットプレースの利用も活性化しているといい、開発者が独自に提供するさまざまなコラボレーションツールの拡張などをユーザーの60%が利用しているという。
パンデミックの収束はいまだ見通せない状況にあるが、Chatwani氏は先述したような価値に重きを置く新しい働き方が着実に広がるだろうと予想する。日本においては、IT部門ユーザーのオンラインコラボレーションといったスタイルが代表的だが、経営層などからは現場業務の可視化を図る目的での導入相談も目立つとし、新しい働き方を広げる手掛かり得たい意向がうかがえる。
「従来のこうしたコラボレーションはIT部門ユーザーの間ではなじみがあったが、これからは管理部門や人事部門、財務経理部門といった新しいユーザー層にも広がっていくだろう。そうした変化の推進をサポートしていきたい」とChatwani氏は話している。