これまで、倫理的なデータの取り扱いに関する議論は盛んに行われてきたが、データサイエンティストが満たすべき公的なスタンダードは存在しなかった。英国の業界団体はその状況を変えようとしている。英国コンピューター協会(BCS)は、王立統計学会(RSS)、王立工学アカデミー(RAEng)と協力して、データサイエンスのプロフェッショナルが従うべきスタンダードを定める取り組みをスタートさせた(「スタンダード」には、プロフェッショナルとして備えているべき能力の基準や守るべき規範が含まれている)。
その目的は、市民から得たデータが倫理的に利用されることを担保することで、データサイエンティストを医師や法律家のような社会で信頼される職業にすることだ。
BCSのプレジデントであるRebecca George氏は、米ZDNetの取材に対して、今や、さまざまな組織から意見を聞き、この分野のスタンダードとなる一連の共通ルールに盛り込むべき時期に来ていると語った。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、医療情報から人の移動に関するデータに至るまで、膨大な量のさまざまなデータが扱われるようになったことも、この議論を推進するきっかけになったという。英国の欧州連合(EU)離脱が迫っていることで、さまざまな産業のリーダーが、信頼できるデータエコシステムを確立することは、英国にとって最優先すべき課題の1つだと認識するようになっているとGeorge氏は話した。
「欧州離脱が迫ってきたことで、私たちはわが国が得意とする分野に注目しつつある。データサイエンスはそのような分野の1つだ」とGeorge氏は言う。「英国は、わが国をデータサイエンスチームの世界で信頼され、求められる国にしたいと強く願っている。今こそ、世界におけるわが国の位置づけをリセットし、私たちが持っている資源を最大限に活かせる方法を模索すべきだ」
仮に現在の地政学的状況や世界的な健康危機を脇に置いたとしても、データサイエンスの役割が急激に大きくなりつつあることには疑問の余地がない。世界経済フォーラムは、2025年には世界で毎日463エクサバイトのデータが生成されると予想しており、そのデータをアルゴリズムと組み合わせることで、クレジットスコアから福祉制度の給付金の分配まで、あらゆることが判断されるようになるかもしれない。
この文脈で重要なのは、情報がどこから来て、どのように使われ、どこに行くのか、そしてデータを利用する技術が公共の利益に沿ったものかどうかを、市民が理解していることだ。業界がスタンダードに準拠すれば、データサイエンティストを強力なガイドラインに従わせることができる。
「これは、この世界の隠れた重要インフラだ」とGeorge氏は言う。「データを利用する仕組みを設計し、構築し、維持している人々に、その仕事を行う資格があるのか、それを証明できるのかどうかを問う必要がある」