新型コロナウイルス感染症の拡大により多くの企業が事業継続の危機に直面しつつある。この危機を乗り越える上で期待されるのがデジタル化だ。リアルなコミュニケーションや情報共有などが難しくなる中、ツールやサービスを活用してバーチャルな環境下でも可能な限り事業継続性を確保している企業は少なくない。今回は以前から全社的な取り組みを進めている食品メーカーのハナマルキにノウハウなどを聞いた。
オンラインのコミュニケーションにシフト
ハナマルキは1918年に創業し、味噌を代表にバリエーションに富んだ発酵食品で有名だ。国内は長野県と群馬県に製造工場があり、2020年にはタイ工場を新設するなど、海外展開にも積極的だ。
同社のデジタル化の取り組みは広範に及ぶが、特に働き方については、2018年の夏頃から業務の効率化と生産性の向上を主眼に検討を進め、2019年秋にGoogleのG Suiteを導入。中でも従前はほとんど経験がなかったというオンライン会議を駆使するようになった。
ハナマルキ 専務取締役の花岡周一郞氏
専務取締役の花岡周一郞氏は、「経営方針として『3H』のハイチャレンジ、ハイクオリティ、ハイコミュニケーションを掲げており、そのうち「ハイコミュニケーション」については、もっと時間を効率良く使うことができれば、コミュニケーションの質が高まり、創造的な仕事に注力できるだろうと考えていた」と話す。
コロナ禍以前における企業の「働き方改革」では、業務効率化や生産性向上など本来の目的というより残業時間の削減といった問題解決に重きを置くケースも見られた。しかし、同社はもともと残業が少ないといい、本来の目的に向けた新しい働き方の実現がテーマだったという。
「以前はメールを携帯電話に転送して確認したり、月次の経営会議なども各拠点から移動して集まったりしていたため、移動のための時間や費用が課題だった。海外で新工場を立ち上げうまく情報共有できるかも課題だった。オンラインでコミュニケーションができればスムーズに方針を伝えるようなことができるだろうと考えていた」(花岡氏)
G Suiteの導入は、2019年春にGoogleの日本オフィスを見学したことがきっかけだった。花岡氏は、Googleのオフィス内でコミュニケーションを促すさまざまな仕掛けを目にしたことに共感したという。先述のように、中でもGoogle Meetによるオンライン会議は全社的なコミュニケーションスタイルを大きく変えた。国内外の拠点間の会議を短期間でオンライン化し、移動時間や交通費などの削減と情報共有の迅速化、働き方の改善といったさまざまな効果を獲得している。
こうしたツールは、導入するだけでは利用しづらい。そのため、同社では各部門の有志が参加する部門横断型の「G Suite推進委員会」を立ち上げ、現場側からツールやサービスを活用していく方法を日常的に議論し、社内勉強会の開催など普及に向けた活動を行っている。オンライン会議についてもカメラやマイクなどの設備を各拠点に整備し、会議をしやすい環境を整備した。花岡氏は、「経営側も会議をオンライン化して現場にアピールしたが、現場からの取り組みも非常にも活発で、トップダウンとボトムアップの両輪でうまく進めることができたのでは」と話す。