新潮流Device as a Serviceの世界

顧客が誤解する「サービス」という言葉の意義--「モノからコトへ」とは何か?

松尾太輔 (横河レンタ・リース)

2020-08-13 06:00

 前回は、日本人の「サービス」という言葉への認識に多くの誤解が含まれる場合があることを説明しました。昨今、多くの企業がモノからコトへと従来のビジネスモデルを変化させようと努力しています。モノの特徴や機能(Feature and Functions)ではなく、モノを使って顧客がどういう状態になるか、どういった体験(Experience)をするのかというコトに焦点を当て、製品やサービスを作っていこうという変化です。

 これは何も新しいビジネスモデルとか、そういった話ではありません。まだ世の中に便利なモノが少なく、市場が拡大しているときであれば、便利なモノや良いモノでありさえすれば売れました。しかし、市場が成熟し、便利なモノや良いモノが溢れれば、モノ自体で差別化することが難しくなり、モノを使って顧客がどういう状態になるのかを明らかにしないと、顧客には受け入れてもらえなくなります。要は、モノの特徴や機能の結果を約束するということです。

 某ダイエットサービスを利用する前と後で全く別人のようになるあのCMを想像してみてください。あのキャッチコピーを地で行き、機能を使った結果を想像し尽くす姿勢が「モノからコトへ」に他ならず、これは成熟した市場において提供事業者が持たなければならない重要な視座ということになります。しかしながら、どうも私の感覚では、そのような顧客の変化を感じ取れることが少ないように思います。

 日本では、いまだに機能でモノを選んでいる人も少なくないような気がしますし、欧米で隆盛するクラウドサービス、サブスクリプションが日本ではいまひとつ理解されていないように感じます。これは、多くの日本の企業が「コト売り」ならぬ「コト買い」にまだ慣れていないからなのです。前回はサービス提供事業者側のサービスという言葉への誤解、「コト売り」のお話でしたが、今回はサービスを受ける顧客企業側のサービスという言葉への誤解、「コト買い」ができていないポイントを解説します。

 ソフトウェアやサービスは、仕様を明確にすることが非常に難しいものです。ハードウェアは、仕様について明確にすることができますが、ソフトウェアやサービスはより複雑で、ハードウェアのように、機能を切り口にした単純な比較ができないケースがほとんどです。オーダーメイドで仕様を明確にして、こういうソフトウェアやサービスを作ってくれとでも言わない限り、既存のソフトウェアやサービスを機能だけで比較することは容易ではありません。

 そもそも、コトとして売られているのですから、機能に何がある・ないについては、そのままコトとして買うのであれば必要ないはずです。コトとして買うということは、起承転結がある物語のように、製品やサービスを利用した場合に、自分たちがどういう状態になっていくかを理解することに他なりません。それを箇条書きや表にして「〇×(ある・ない)」を付けるようなものでは決してありません。「コト買い」では〇×表を作れませんし、そもそも作る必要がありません。

 しかし、モノづくり大国としての性(さが)といいますか、それ故のモノの呪縛といいますか、なぜかモノと同じようにサービスを比較してしまうところが、今の日本企業にとって惜しいところです。単純な比較をしたいが故に、枝葉どころか重要な太い幹を幾つも落とした表面上のまとめにしかなっていない〇×表を私自身もよく目にします。

 今の日本企業は〇×表が大好きです。サービスをモノと同じように比較することは事実上不可能なのですが、これまで慣れ親しんでいた比較が達成できているように思えるからでしょう。提供事業者がそれぞれ開発したソフトウェアやサービスにおいては、そもそも全く同じものはないわけですから、〇×表の結果は幻想にすぎません。「コト買い」とは、自分自身でこの製品やサービスを使った時にどういう状態になるのかというポイントで比較すべきですが、残念ながら機能の比較にとどまっているケースがほとんどです。

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