貧困にあえいでいる農村がドローンによって窮状から抜け出した。場所は広東省の省都・広州市から西に600kmのところにある雷州市那毛村だ。もともとは漁村だったが、村民の多くが漁業を辞めて農業を始めた。だが、農業の知識や経験が不十分ですぐにはうまくいかず、台風が年に数回は直撃する地域ということもあって貧困を抜け出せずにいた。
総人口3000人の小さな村で貧困家庭の数は52戸200人に上る。14戸が土地を持たず、52戸は極小の農地を持つだけだった。この村がドローンの導入してから大幅に収益を向上させ、中国の各メディアがその様子を記事にするようになった。この記事はそれらをまとめたものになる。
那毛村のトップである彭氏は村の調査をさせたところ、20のレポートから土地と人は十分にあるが適切な手段がないと分析。サトウキビやサツマイモ、コメの生産が向いていると判断した。もともと同氏は農機関連の仕事をしていたため、那毛村のトップに就いてから農機を積極的に導入してきた。
さらに、中国でドローンが話題になる中、これで農薬を散布できないかと思い、農業用ドローンを生産する企業の珠海羽人(農業航空)を見つける。那毛村と珠海羽人は5年契約で資本金の3割を村が負担し、7割を珠海羽人が負担する合資会社の湛江羽人飛防服務を設立した。農村と企業が共同出資することにより、ドローン企業は利益や実績を作り出せるだけでなく、産業自体のアピールにつながるわけだ。
村役場はドローン置き場やトレーニング場の土地を提供するなど積極的に協力した。ドローン教室を開講し、年齢制限なく貧困家庭については無料で受講できるようにし、1年目で村民の60~70人が参加登録をした。この中には、広東省の深センや広州などの工場で働く若者も含まれている。もともとは得るものが少ない農業のために帰郷する気はなかったが、ドローンを活用した農業にやりがいを求めて戻ってきた若者もいた。ドローンの活用は拡大を続け、現在までにおよそ60台のドローンと十数人の操縦士がいるという(多くの人が技能を習得する前に脱落したようだ)。
農家に対しては、種苗の無料化だけでなく、技術指導や機器貸与も無料にした。生産分は決まった金額で買い取り、同地生産のサツマイモについては「福平」というブランドを付けて認知を高めた。サツマイモの加工場や冷凍庫などを建設して生産力も強化した。
1年目に那毛村は15万元の利益配分を得て、2018年には貧困ラインを超えた。村の様子も道路をはじめとした生活インフラが改善され、見違えるほど変わったとしている。トップの彭氏はハイテクを用いて富裕村にすることを目指すとしている。
農業経験の浅い中国の貧困村を立て直したのは、農業用ドローン企業と農機設備導入に理解のあるトップ、村の農業をドローン企業と合資で企業化したことによるものだ。中国では、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、中国各地の農産物をライブコマースで販売することが流行っている(つまり中国における農村への物流は整っている)。
珠海羽人は農薬散布用ドローンのほか、田植え用ドローンもリリースするなど技術力を高め、製品のラインアップを増やしている。さらに農業用ドローンを開発する企業は珠海羽人のほかにも複数社ある。それを中国全土の農村で競って導入しそうだ。つまり、今後はドローンと各種農機によって、中国の農村は生産力を増やし、豊かになっていくのではないだろうか。
- 山谷剛史(やまや・たけし)
- フリーランスライター
- 2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。