日本はDXにおいて周回遅れであることを自覚する必要がある
DXへの取り組みにおいて、日本は他の国・地域から水をあけられていると言わざるを得ません。デジタル時代をけん引するグローバル大手企業やデジタルディスラプターの多くは米国発祥の企業ですし、シリコンバレーでは毎日のようにデジタル技術を駆使したベンチャー企業が生まれています。
企業の栄枯盛衰が著しい米国では、アマゾンショックによって大手百貨店やかつてはカテゴリーキラーと呼ばれた専門小売業が続々と倒産に追いやられ、Uberの出現でタクシー業界は大きな打撃を受けています。しかし彼らは、こうした競争による淘汰(とうた)を産業の新陳代謝として受け入れ、ゼロから新しい世界を作り直すことを厭いません。一方、経済成長とデジタルの波が同時に進行している中国・アジアなどの新興国は、何のしがらみもなくDXにまい進しています。
しかし、日本の企業は昭和の高度成長期の常識や資産を捨て去ったり、大きく転換したりすることなく平成の30年を過ごしてしまったために、既存事業の成功体験、旧来の組織制度や企業風土、老朽化し複雑化した既存システムを捨て去ることができず、重たい荷物を背負ったまま、これまでと異なる、身軽さが勝敗を左右する新しいルールの戦場で戦いに挑んでいるのです。
もう1つ、DXを阻害する重大な要因があります。それは、組織マネジメントの問題です。デジタル化の潮流が叫ばれて以来、これに対応する方法やデジタル戦略論、対ディスラプター対策などに関する書籍は数多く出版されています。しかし、欧米の著名な学者やコンサルタントが執筆するDX戦略の要点は、経営トップのリーダーシップを問うものばかりです。すなわち、経営者が将来に対する洞察と強力なリーダーシップを持って、トップダウンでDXをけん引することを前提としているのです。
一方、日本国内でDXに関する講演を行った際に寄せられる質問の多くは「どうすれば経営者の意識を変えられるのでしょうか」というものです。トップダウン型のDXを断行できる企業は多くないというのが日本企業の実態と言えます。日本企業は、今こそ重たい荷物を捨て、デジタルに大きく舵を切り、自らを変革していくことが求められます。
- 内山 悟志
- アイ・ティ・アール 会長/エグゼクティブ・アナリスト
- 大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任しプリンシパル・アナリストとして活動を続け、2019年2月に会長/エグゼクティブ・アナリストに就任 。ユーザー企業のIT戦略立案・実行およびデジタルイノベーション創出のためのアドバイスやコンサルティングを提供している。講演・執筆多数。