互いの姿を感じてリモートならではの不安を払拭
一方で、互いの姿が見えないテレワークは、皆の不安感を生み出すこともある。Sococo導入前、宮田氏が経営者の立場として不安に感じていたのは、テレワークを開始して従業員の様子が見えなくなることだった。従業員の側も「在宅勤務になっても、自分が普段通りに働いていると信じてくれるのか」といった不安を抱えていたという。双方の心配事を払拭しないと、信頼関係は崩れてしまう、と宮田氏は語る。
Sococoは互いの気がかりを拭い去るのに適したツールだった。ログインして“話しかけてもいい状態”にしておくと、メンバーがコミュニケーションを取りにくる。PC前で仕事をしていないと、素早く応答できない。15分以上の長めな休憩をとるときは、併用するコミュニケーションツール「チャットワーク」にその旨を書き込む決まりがある。
「弊社くらいの小さな会社だと、メンバー皆が全員とやりとりする機会があります。そのため、一人ひとりが今どこにいるのか、どんな状態なのかを把握しておくことが、スムーズなやりとりには欠かせません」
従業員の「映像」ではなく、アバターでいいのかと尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「従業員の様子が数分おきに映し出される、ウェブカメラを使ったサービスもありますが、導入しようと思ったことはありません。皆のプライバシーを守りたいのです。顔が映る瞬間、背景がわずかに映り込むことがありますが、それも避けたいと考えています。弊社では個別の面談や定例会議などを除く社内の報告や会議も映像ではなく、基本的に音声だけでのやりとりです」
部署ごとに毎日10分程度行われる朝会、その後個別になされる報告も、音声のみで進行しているが不都合はない。
実施前に「テレワーク規定」を整備
同社はSococoを導入した2015年、総務省が実施した「平成27年度テレワークの普及促進に向けた調査研究における、テレワーク導入コンサルティング」を受けた。このことが「テレワークは難しそう」といった意識を従業員からなくし、「テレワーク=皆にとって働きやすい制度」として、社内に浸透していったという。
「在宅勤務に関する社内規定(テレワーク規定)を定めたのもそのときです。ルールを決めておかないと、『あの人は在宅勤務でいいとされているのに、どうして私はできないの』といった反発が生まれます。例えば、弊社では入社1年未満の従業員には、在宅勤務を許可していません。それもルールで定めています」
テレワークを実施する前に、ルールや基準の整備は必要だ。見切り発車でスタートすると、秩序が保たれず混乱が生まれる可能性も。たとえ全員で一斉に実施する場合であっても、皆の足並みを揃えるために欠かせない、と宮田氏は語る。
今回のコロナ下で、2020年新卒として入社した従業員も、例外的に在宅勤務対象者となった。メリットが多い在宅勤務だがデメリットもあり、新人育成の難しさが浮き彫りになったという。新人は取材という“現場”に立ち会う際に学びを得ることが多いが、在宅勤務ではそれが成り立たない。作業を覚えることはできても、“現場感”をモノにしづらいと宮田氏は語る。
最後に、今後オフィスをなくして、半永久的にフルリモート体制を敷く予定があるかどうか尋ねた。
「その予定はありません。オフィスは拠点として残します。仲間の近くで仕事を進めることで、得られる学びは多くありますから。ウィズコロナの時期が続きますが、いきなり大きく変えるのではなく、本当に必要なもの・そうでないものを見極める好機だと捉えています。冷静でありたいと思っています」
最後に
Sococoを導入して5年経つ同社は、今も「この時代に最適な働き方」を模索している。
コロナと長く付き合っていかなければいけない今、すべての会社が、新しい働き方を考えて取り入れる岐路に立たされていると思う。
そんな皆さんに少しでも参考にしてもらえるような事例を今後も届けていきたい。