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記事まとめ「テレワーク常態化で見えたこと」
展望2020年のIT企業

新型コロナがユーザー企業のIT企業買収を活発化させる

田中克己

2020-08-27 07:00

 「ユーザー企業によるIT企業の買収が活発化する」――。IT領域に特化したM&Aアドバイザリー事業を展開するパラダイムシフトの牟禮知仁代表取締役はこう予想し、約10年前にデジタル化を加速させたいユーザー企業にIT企業を紹介して買収までを支援するビジネスを始めた。予想通り、仲介案件は年々増加し、最近の成約件数は年30件程度に達する。出遅れたデジタル化へ本格的に取り組む日本企業の増加に対応し、人材の確保と協業関係の構築に乗り出す。

 牟禮氏は大学卒業後、ベンチャーキャピタルに入社し、IT企業への投資などを担当する部署に配属される。そこで、多くのIT企業の経営者らを知り、経営状況を理解する。そんなIT企業の1社へ2009年に転職し、役員として事業のM&A(買収&合併)などを担当する。ところが、IT企業の買収を仲介する事業者はあるが、「使い勝手のいい会社が少ない」(牟禮氏)ことに気が付いた。IT企業の事業を理解し、ユーザー企業の求めるデジタル化に応えられるIT企業を探し出し、スムーズな買収作業を支援できるかということだろう。

IT企業のM&Aを専門にするパラダイムシフト

 そうした中で、「IT企業を買収したり、売却したりするケースが増えてくる」と判断した牟禮氏は、2011年にパラダイムシフトを立ち上げた。「当時、ITセクターのM&Aは少なかった」(牟禮氏)という。ある統計によれば、M&Aの総件数は年間に約2000件で、IT企業の割合はその19%程度だったという。それが2019年に約4000件に増えるとともに、IT企業の割合も35%程度に高まったという。買い手もIT企業からユーザー企業へと変わってきた。

 そこに新型コロナウイルス感染症が買収の流れを加速させる。「デジタル化が待ったなしに迫る」(牟禮氏)からだ。例えば、ある小売業の店舗売り上げが月を追うごとに減少し、5月には前年同月比で70%弱もダウンする。その後、若干の回復を示したものの、顧客とのリアルな接点を失った小売業はネット通販など新しい販路の開拓に乗り出そうとする。

 だが、その小売業にデジタル化の経験もノウハウもない。IT化に関心がなかったので、社内にIT人材もほとんど育っていない。そこで、外注先を探すことになるが、どのIT企業に頼めば最適なデジタル化を実現できるか分からない。要件定義が作成できなければ、開発が思うように進まないことに不満を募らせるだろう。

 内製化という手がある。だが、世の中に優秀なITエンジニアは不足しており、採用も難しい。IT人材の育成・確保の経験もない。そんなユーザー企業にIT企業を紹介し、買収を提案、支援するのがパラダイムシフトだ。

 では、どんなIT企業を紹介するのだろう。例えば、Eコマース(電子商取引)サイトを立ち上げたい小売業なら、小売業のIT戦略から新しい顧客接点を創り出すITシステムに落とし込むまでを担えるIT企業になる。システム構築できるIT企業は山ほどあり、紹介の基準にはならないという。

 同社はそのため、日本に約3万社あるIT企業のうち約1万社の経営データを時系列に蓄積してきた。重要視するのは、IT企業の資産や負債の状況を示す貸借対照表(BS)ではなく、損益計算書(PL)になる。多くのIT企業は製造業のような工場や建物などの資産を所有していないことが多く、「売掛金、買掛金、現金、以上となるので、BSよりも、PLと業態にあったKPI(重要業績評価指標)を見る」と牟禮氏。例えば、Eコマース用ソフトや開発を手がけるIT企業ならユーザー数、単価、リピート率などになる。派遣会社ならエンジニアの数や質になるだろう。

 M&Aを仲介する社員は現在20数人になる(うち3人を中国に配置し、中国企業による日本のIT企業の買収を支援)が、案件の増加に対応するため、社員を増強するとともに協業作りを推進する。既に一六銀行やみなと銀行など地方銀行と提携し、デジタル化に取り組む取引先企業にIT企業を紹介する。金融機関だけではない。8月に業務提携した伊藤忠ファッションシステムはその1つになる。同社が取り組むアパレルなどの企業に対するブランド力や成長戦略などを支援する中に、デジタル化を担うIT企業の買収を組み入れるというもの。

 そんな買収されるイメージをIT企業に伝えることも欠かせない。例えば、IT企業の経営者らに、1事業部や子会社になり、「こんな役割を担う」などと具体的な事業展開や役割を説明する。理解が進んだこともあり、「ユーザー企業の売り上げは上がっている」(牟禮氏)などと成果は出ているという。ユーザー企業の傘下に入ることは、事業継続や成長へのIT企業の新しい道になるのもかもしれない。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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