予知保全は、壊滅的なシステムの故障防止に責任を負う産業用機器のオペレーターにとって、ますます重要性を増しています。潜在的な機器の故障を予測し、それに対応することができれば、事前に修理のスケジュールを立て、稼働工場全体に及ぼす混乱を最小限に抑えることができ、最終的には企業の収益に貢献することができます。
しかし、予知保全が測定可能な利益をもたらすかどうかについては、懐疑的な見方がいまだに存在しています。この疑念は、アプリケーションへの投資からどのようなROI(投資利益率)が得られるのかを判断するのが難しく、適切な量の機器故障データがあるのか、あるいは機能的なアルゴリズムを実現するために適切なデータがあるのかどうかさえ分からないという企業側に起因しています。予知保全は、機器の運用データを何らかのアルゴリズムに入れて機械の耐用年数を予測する「ブラックボックス」ソリューションだと誤解されている場合があります。しかしこれは、故障を検出して予測することができるアルゴリズムの開発において、ドメイン知識が果たす役割を過小評価した結果の誤認識だと言えるでしょう。
数学的背景を持つデータサイエンティストは、以前から予知保全に関与してきました。しかし、彼らにはエンジニア集団が所有するドメイン知識が不足していることがよくあります。企業にとっては、データサイエンティストとエンジニアの橋渡しをすることは、予知保全モデルをより良く学習させるために必要な機器の故障データを取得する絶好の機会となります。ソフトウェアシミュレーションツールは、予知保全モデルをより強力にし、かつ適切に学習を実行するために必要なデータ量をより少なくすることができるため、この故障データ取得プロセスを容易にします。また、これらのツールを使用することで、予知保全に不慣れな人でも、データを収集して学習させるためのさまざまなテクニックを実行することができます。
これらのモデルを学習させるために、企業は故障データがどのようなものかを知る必要があります。しかし、機器が頻繁に故障するわけではなく、故障データを得るために機器を故障させるのは費用面で現実的ではないため、故障データの入手は困難です。この障壁への対処として、ソフトウェアツールを利用することが上げられます。つまりシミュレーションモデルを使って、さまざまなテストシナリオで実際に稼働している機器がどのように機能するかをモデリング、シミュレーションすることで故障データを生成することができます。ここでは、このアプローチを行った事例を3つご紹介します。
・油田サービス企業のBaker Hughesは、データ分析を利用した予知保全のためのポンプ状態監視ソフトウェアを開発するためにソフトウェアツールを使用しました。その結果、同社は装置のダウンタイムコストを40%も削減し、現場でのポンプシステムを搭載した故障時予備用トラックの必要性を削減しました。
・包装、紙製品メーカーのMondiは、機器の潜在的な問題を特定するために、ソフトウェアツールを用いて状態監視と予知保全のアプリケーションを開発しました。同社には機械学習の専門知識を持つデータサイエンティストがいませんでしたが、これらのツールを使用することで、数カ月でシステムを完成させることができました。
・ハイテク産業グループのSafran(スペイン)は、油圧プレスの異常を能動的に監視し、予測するためのニューラルネットワークモデルを学習させるためにシミュレーションモデルを使用しました。シミュレーションモデルを使用して故障データを生成することで、実際の機械の故障データが不足しているという問題を克服することができました。
上記の例のように、企業がデータサイエンティストとエンジニアを結びつけることは、エンジニアリングシミュレーションツールを使って必要な機器の故障データを生成し、そのデータを使って予知保全モデルをより良く学習させる絶好の機会があることが分かります。ソフトウェアシミュレーションツールを使うことで、予知保全モデルをより強力にし、かつ適切な学習を行うために必要なデータを少なくすることができるため、この故障データ取得プロセスを簡素化することができます。また、これらのツールを使用することで、データサイエンスにあまり詳しくない人であっても、データを前処理し、そのデータを用いて予知モデルを学習させるためのさまざまなテクニックを実行することができます。