人事関連でよく聞く言葉「従業員エンゲージメント」。ただ、「エンゲージメント」という言葉自体が日本語としてあまり馴染みがないこともあり、一般の管理職やビジネスパーソンの多くにとって、どのようなものなのかを理解するのに難しさを感じるというのが実情ではないだろうか。
そこで、ここでは、従業員エンゲージメントとは何かから始まり、なぜ重要なのか、向上のためにはどうすればよいか、コロナ禍の影響といったことを知るため、従業員エンゲージメントに詳しいクアルトリクスのEXソリューションストラテジーディレクターである市川幹人氏に話を聞いた。今回はその前編。後編はこちらで公開。
「エンゲージメント」という語が意味するもの
――まず、英語の名詞「Engagement」とその動詞「Engage」が、この場合に意味するものは何なのでしょう。
市川幹人氏
提供:クアルトリクス
辞書を引くと、お決まりの「契約」とか「婚約」とか「約束」とか、そのような意味が出てくるのではないかと思います。「人を〜に従事させる」や「人を〜に携わせる」、「雇う」という意味もあったりします。
契約や婚約でもそうですが、「決められたことをしっかりやる」というような、期待されていることに対してしっかり応えていく、というようなニュアンスの言葉なのだろうなと思います。
――では、「従業員」に「エンゲージメント」が加わった「従業員エンゲージメント」は何を意味するのでしょう。
従業員エンゲージメントというコンセプト自体は、欧米ですと1990年代の始まり、ですから、30年ぐらい前からずいぶん注目されています。日本で「社員エンゲージメント」「従業員エンゲージメント」「エンプロイーエンゲージメント」と言ったりするものが大分出てきた感じがしたのは、2000年に入ってからです。欧米から10年以上遅れてとなりますが、やはり、カタカナの「エンゲージメント」というのがちょっとピンと来ない、みたいなところもあっての話なのだと思います。
HR(人事)分野で社員エンゲージメントというような言葉が本格的に使われ始めたと思うのは、私の感覚では2005年とかですね。ですから、日本では今から10〜15年ぐらい前からは、一応、社員エンゲージメントという言葉が使われていた印象はあります。HR関連で欧米の動きなどをウォッチされている方においては「エンゲージメント、大事だよね」みたいな会話が当時からもありました。
質問に戻って、「従業員」と「エンゲージメント」を合わせた時にどういう意味になるのかですが、会社は、「ここまでのことをやってほしい」という期待を持って社員を採用します。会社や組織の発展に貢献してもらいたいという気持ちがあるわけです。それに対し、社員がちゃんと責任を持って自分の役割を果たそうと思い、何か指示されるのを待つのではなく、自ら前向きに取り組んでいく、というような姿勢を「エンゲージしている」とか「従業員エンゲージメント」という言い方をするようになったという流れがあります。
満足度している従業員からエンゲージしている従業員に
HR分野で、従業員エンゲージメントというのがどういう文脈で出てきたかというのをお話ししたいと思います。
社員意識調査というような調査の中心的なテーマとして、社員エンゲージメント調査というのがだいぶ定着してきたのですが、元々日本で言いますと、ほとんどの会社では「社員満足度調査のことですよね」という反応があります。要するに、社員がちゃんと満足して仕事に打ち込んでくれているかということで、組織や会社で何らか改革をするときに社員がこんなに不満を抱えていてはダメじゃないかと。それを測るために満足度調査をしましょう、という考え方です。
欧米でも社員満足度調査というのはありますが、先ほど申し上げたように20〜30年前からは従業員エンゲージメント調査に変わってきました。これはなぜなのか。満足度調査は、そのまま文字通り捉えると、社員を満足させるための調査です。社員をハッピーにさせるための調査です。そうした時、満足している社員がすごくパフォーマンスが良く、業績や成果を上げているかというと、調べてみると必ずしもそうでもないと。働き具合というか、パフォーマンスそのものを見ると、必ずしもハイパフォーマーでないような人だって満足するケースがあるじゃないかと。
極端な言い方をしたときに、満足している社員というのは「仕事が楽で良いな」という意味でも満足したりするわけです。あるいは、「早く帰れたりするから良いな」「休暇を取れて良いな」「給与も高いぞ」「年功序列で上がっていけるから、いずれ課長や部長になれるだろうから嬉しい」というのも満足しているという要素となり得るわけです。