エンゲージメント調査が出てきて10年経った2000年を過ぎたぐらいに、「エンゲージメントを測っていれば良いのか」という、先ほどの満足度と同じような話がありました。「エンゲージしている社員=ハイパフォーマー」と思ってやっていたはずなのですが、必ずしもそうとも言い切れない例が――満足度よりもマシだとしても――時々あるのではないかという話が出てきました。エンゲージメントだけでは足りないといった時に、では何が足りてないのかというと、サポートや支援要素、英語でいうと「Enablement」なのですが、”できるようにしてあげましょう”ということなのですね。エンプロイーイネーブルメントという言葉になります。
エンゲージしているというのは、社員一人ひとりが「頑張っています。一生懸命やっています。自発的に行動しています」ということです。ですが、「半年とか1年頑張ってやっても誰も支援してくれない。孤立無援状態で一生懸命やったけど、燃え尽きてしまいました」と会社を去っていくというのでは、まったく意味がないじゃないかと。もっとサポートしてあげないと、社員が頑張ろうとなった時に力を発揮できないじゃないか、ということで、エンゲージメントとイネーブルメントを両睨みで見ていく、というのがエンゲージメントサーベイで主流になっていったという経緯があります。
社員をイネーブルしている、つまり、社員を”できるようにしてあげましょう”としているのは会社です。ですから、エンゲージメントは、社員が自ら進んでやるという姿勢、イネーブルメントは会社が手を差し伸べることで、頑張ろうとしている社員を頑張れるようにしてあげる取り組みというのが説明の仕方になります。
――エンゲージしている従業員は、自ら積極的に取り組んでいる社員ということで、「熱心な社員」というイメージでしょうか。
ええ、熱血社員とかでも良いと思います。言われなくても誇りを持って好きでやっていることなので、仕事に対しても会社に対してもポジティブな行動パターンでどんどんやっていくという人たちです。
――「エンゲージしている従業員」に対して「ディスエンゲージしている従業員」という表現があります。これの意味は。
エンゲージの反対なので「ぬるま湯に浸かっているような社員」、もっと平たく言うなら、「やる気がない社員」とか「言われたことしかしない指示待ちの社員」というような表現で説明できるかなと思います。
業績アップへの流れと従業員ファースト
――従業員エンゲージメントが企業にとって重要なのはなぜでしょうか。
最終的には、エンゲージしている社員が多くいれば、会社の発展、組織のより大きな業績につながる、という考えです。
エンゲージしている社員は、熱中して時間や労力も厭わず、必死になって良いものを作ろうとする人たちです。ですから、そこには生産性の向上があります。また、これまで誰も試してないようなこともチャレンジするようなマインドセットなので、革新性が生まれます。
生産性や革新性がアップすることで「カスタマーエクスペリエンス(CX)」が向上します。お客様から見た時に、一生懸命やって熱意を持って接してくれるような社員がいる会社には非常に良い印象を持つとともに、非常に良い体験ができるわけですね。その商品やサービスの質が「ここの会社、非常に頑張っているな」と感じられるようなものなら、次に同様の商品やサービスを買う時も「同じところでいいや」と思います。これは、「顧客ロイヤリティー」という表現になります。あるいは自分の家族や知人に対しても「あそこ、すごくいいよ」や「すごくオススメ」みたいなこと言うわけですね。自分が良い体験をすれば、それを他の人たちにも言いたくなるわけで、こういった流れにつながっていきます。
お客様が定着し、さらには、知らないところでもお客様が増えていくということで、業績がアップしていきます。
また、業績がアップしていることによって、非常に良い成果を残している会社で働いている人たちは、さらに前向きな気持ちになります。非常に高い業績を上げ、世間的にも「あそこはすごいよね」と見られているような会社であれば、社員もそこで働くことにより誇りを感じ、エンゲージメントもアップする、というような流れが想定されます。
従業員エンゲージメントがなぜ重要かという質問に戻りますと、生産性がアップして革新性が生まれ、それがお客様の満足につながり、業績がアップするといった流れを作る時に、エンゲージメントが非常に重要ではないですかということになります。
これは、ひっくり返して考えてみると対比でわかるような部分もあると思います。やる気がなく、自分の仕事や会社に対して誇りも持っていない、戦略や方針に対して「こんなのじゃダメだろう」と思っているような社員が適当な仕事をする。すると、そのような商品やサービスを購入したお客様も「あそこはあまり良くなかった」「期待外れだった」となります。そういうことがあると二度と購入されなくなったり、ネガティブな口コミをされたり、業績にもネガティブな影響を与える流れになる可能性があります。
こういう悪循環に陥らないために社員からスタートして考えれば、一生懸命やる社員が良いサービスをして、それがお客様の評価につながり、業績につながっていくと。だから、社員エンゲージメントというのは重要なのです、という考え方です。
Virgin GroupのRichard Branson氏などが「エンプロイー・ファースト」という言い方をしています。日本では「お客様は神様です」というような言い方をしてきましたが、その神様に仕えるべく社員が自分の仕事に納得している、誇りを持っている、いろんな工夫をしながらお客さんと接しようとする、ということが大事です。そういう意味で、社員を大切にしていれば、それがお客さんにも伝わっていくのですよ、という考え方が重要になっている世の中だと思います。
(後編に続く)