埼玉県鴻巣市、Microsoft AzureとSINETを接続した教育ICT基盤を構築

大河原克行

2020-08-27 11:14

 埼玉県鴻巣市の教育委員会は、「先端技術の活用による教育ICT環境の刷新」に取り組むことを発表した。教育ICTの基盤をクラウドサービスへ全面的に移行し、ネットワーク環境が整備されている場所であれば、どこからでも学べる環境を構築する。クラウドには、日本マイクロソフトのMicrosoft Azureを採用する。

記者会見する埼玉県鴻巣市の原口和久市長
記者会見する埼玉県鴻巣市の原口和久市長

 また、国立情報学研究所(NII)が構築・運用する学術情報ネットワーク「SINET」とも結び、クラウドを使用した校務系システムを構築して、強固なネットワークセキュリティ環境のもとで利用できるようにする。教育委員会がSINETと接続してMicrosoft Azureを活用する事例は全国初となる。いずれも2021年4月から本格稼働する予定だ。

 鴻巣市の原口和久市長は、「校内外でICT機器を日常的に活用する環境を整備し、子供たちがICT機器を文房具のように自由に使える姿を目指す。未来の創り手となる子供たちが、これからの時代に求められる資質、能力の習得が可能となる学校教育を実現するとともに、多様で柔軟な働き方、学び方を実現したい」と述べた。

 今回の鴻巣市教育委員会の取り組みには3つのポイントがある。1つ目は「先端技術を活用したICT環境整備」だ。全国初となるSINETに直結したMicrosoft Azureを活用することで、高いセキュリティ環境を実現する。また、これまで市役所や学校に設置していたサーバー環境から全てクラウド環境に移行する。SINETへの加入はこれから行う予定だ。

 SINETは、全国の大学や研究機関などが利用するために構築された学術情報基盤であり、現在は「SINET5」として、全国86全ての国立大学や公立、私立の大学、短期大学、高等専門学校、大学共同利用機関、独立行政法人など900以上の大学および研究機関などが利用している。全都道府県を100Gbpsの回線で接続するとともに、欧州、米国、アジアの国際回線も100Gbps化を実現する。東京・大阪間は、長距離伝送では世界最高水準となる400Gbps回線を構築している。国内の各ノード間をメッシュ状で結んでいることから、各ノードを最短経路で接続し遅延を最小化しているのも特徴だ。2019年にSINETを初等中等教育機関にも開放することが発表されていた。

 2つ目は「学習形態の変革」だ。電子ドリル教材や教材コンテンツを充実させ、効率的で公正な、個別最適化された学びの実現を目指すという。デジタルコンテンツ配信サービス「EduMall」などを活用。教材コンテンツは家庭での利用も視野に入れている。

 鴻巣市では、児童・生徒が日常的にPCを自由に使える環境を用意する。1人1台環境の整備を目指し、市内27の小中学校で8509台(小学校5575台、中学校2929台、予備5台)のPCを整備する計画も盛り込んでいる。児童・生徒用には、2-in-1ノートPCの「Dell Latitude 3190 Education 2-in-1」を導入する予定だ。教職員用には、日本マイクロソフトのSurface Pro 7を採用し、650台を導入する。1人1アカウントを用意し、児童・生徒がPCを自宅に持ち帰って、宿題などができるようにするという。

 今回のICT環境の整備は内田洋行が担当し、児童・生徒用および教職員用のPCのキッティングは、内田洋行グループのウチダエスコが実施する。教職員からの各種問い合わせなどのヘルプデスク機能や、メンテナンス、オンサイト保守も同社が担当する。また、学校現場でのICT活用を支えるICT支援員や研修会、それらのマネージドサービスは、内田洋行グループのウチダ人材開発センタが担当する。

 なお、電子ドリル教材は、ネットワーク環境がない家庭でも活用できるようにしており、教材のダウンロードなどは学校のネットワーク環境を利用する。PCのストレージに格納して持ち運べる。

 3つ目は「子供と向き合う時間の創出」になる。統合型校務支援システムや採点支援システムなどの導入により、成績処理や文書管理、出勤簿、勤怠管理などの校務を完全電子化するとともに、全教職員にセキュリティが高いテレワーク環境を整備することで、在宅でも校務などができる環境を実現し、教職員の負担軽減とワークライフバランスの向上を目指す。これらの取り組みは埼玉県内では初めてになる。

 教職員が使用する校務系のネットワークについては、最新のゼロトラストセキュリティモデルを導入し、閉域網にアクセス可能なSIMの整備により、教職員が持つPCで場所を選ばずにネットワークに接続し、高いセキュリティ環境においてテレワークを実現できるという。また、教職員の会議や研修には、オンライン会議システムを積極的に利用する考え。オンライン研修の導入により、教職員がいつでもどこでも学べる環境や、オンラインフォーラムの実施により、場所や時間の制約がない環境で、教職員による活発な意見交換も進めるとする。

取り組みの概要(報道向け説明資料より)
取り組みの概要(報道向け説明資料より)

 鴻巣市教育委員会では、2019年9月に「鴻巣市学校教育情報化推進計画」を策定し、「新時代にはばたく鴻巣の子供たちにふさわしい教育ICT環境の構築を目指してきた」(原口市長)という。今回の「先端技術の活用による教育ICT環境の刷新」では、「全国初、県内初という先駆けた取り組みが多く、公正に個別最適化された学びを実現することで、一人ひとりの個性を生かしながら、誰も取り残されることのない教育の実現を目指し、今後とも教育の情報化にまい進していく」(原口市長)という。

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