NECとNTTコミュニケーションズ(NTT Com)は8月28日、新冷媒を用いたデータセンター(DC)の冷却システムを開発し、東京都内にあるNTT Comの通信ビルで報道陣に公開した。両社の実証では、従来の冷却システムに比べて空調の消費電力を半減できることが分かったという。
両社が開発したのは、DC向け空調設備では世界で初めてノンフロンの新冷媒のR1224ydを採用し、相(気体液体)変化冷却技術を用いる「相変化冷却システム」。このシステムでは、熱源となるサーバーを収納するラックの背面から放出される熱を冷媒で抜熱(液体から気体に)し、配管を通じてサーバールームの室外に運ぶ。室外の機器で放熱(気体から液体に)する仕組みとなる。
新冷却システムの概要イメージ
このシステムは熱交換性能が従来の水冷システムに比べて高く、受熱性能を2倍以上に向上させつつ受熱部の小型化できるという。従来に比べて設置時の高さが半分程度で済み、既存のDCに後付けで容易に導入できる点が特徴となっている。
説明の場でNEC システムプラットフォーム研究所 所長代理の仙田修司氏は、「新システムは環境負荷が小さく、モジュラー型で後付できること、そして消費電力を半減となる3つの特徴を持つ。当社の冷媒技術とNTT Comの熱エネルギー管理技術の組み合わせによって実現した」と述べた。
NTT Com プラットフォームサービス本部インフラデザイン部インフラ部門担当課長の都筑章雄氏は、「これまで冷媒の変化への課題だった。現在の代替フロン(HFC)も2019年から段階的に削減され有資格者が必須でコストを要する。新冷媒は、従来の空気の循環ではないため効率的に熱を変換でき、しかも人の体温ほどで揮発するため、万一こぼれても通信機器にダメージを与えず画期的」と話した。
両社の検証では、NTT ComのDCにおける排熱ノウハウや温度管理技術も活用することにより、大型空調機に相当する40kWの冷却能力での消費電力が現行に比べて半分以下に削減できる効果が確認された。
NEC システムプラットフォーム研究所 技術主幹の吉川実氏によれば、同社でも冷却技術を研究開発し、国内の自社設備で利用しているが、新冷媒を利用したシステムの開発にNTT Comの空調管理の知見が大きく貢献したという。特にサーバーラックからの排熱を受ける「受熱部」は大幅な小型化を実現しつつも、サイズの異なるラックにも対応可能なユニバーサルデザインとなっている。これによって設置の柔軟性が飛躍的に高まりシステム規模も従来に比べてコンパクトながら大型空調システム並みの冷却能力を有する。
両社によれば、DC市場は年率10%以上で拡大し、首都圏の全消費電力の12%ほどを通信設備が占めている。DCの消費電力の約30%が空調設備関連で、今回の技術を用いることにより新設・既設を問わず導入できるため、大きな削減効果を期待できるという。
消費電力の削減効果
今後はNECが2022年に製品化し、NTT Comが同社DCに順次導入していくことを検討している。現時点で導入費用は従来システムに比べて高額になる見通しだが、稼働後5年間の消費電力削減効果で回収できるように開発を進める。NTT Comの都筑氏は、「DCの冷却システムは概ね10~15年ほど使用する。消費電力の削減に加え設置の自由度の高さもコスト削減に寄与するためDC全体への効果はとても大きい」と期待を寄せる。
将来的には病院や複合商業施設など大型の冷却設備を持つ施設への販売導入も視野に入れるほか、排出した熱を温水や発電、農業などに再利用する事業も構想している。都筑氏は、「一方で単にシステムを入れ替えるという目的だけでは普及しづらいと思われる。熱の効果的に再利用していく工夫し、地球環境にも貢献したい」と話している。NEC システムプラットフォーム研究所の吉川氏、仙田氏、NTT Com プラットフォームサービス本部の都筑氏(左から)