本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、国立情報学研究所 所長の喜連川優氏と、アカマイ・テクノロジーズ職務執行者社長の山野修氏の発言を紹介する。
「日本のIT化が遅れているのは、政府と大学生で人材が不足しているからだ」
(国立情報学研究所 所長の喜連川優氏)

国立情報学研究所 所長の喜連川優氏
国立情報学研究所(NII)所長の喜連川氏は先頃、日本データベース学会の学生企画で、オンライン形式で大学生および大学院生のさまざまな質問に答えるセミナーに登場した。冒頭の発言はそのセミナーで、日本のIT化が海外に比べて遅れている理由について語ったものである。
このオンラインセミナーは、日本データベース学会の学生企画として開催されたもので、その第一弾として、同学会の会長でもある喜連川氏が登壇した。同セミナーで紹介された喜連川氏のプロフィールは表の通り。また、本連載「今週の明言」でも過去3回登場していただいており、NII所長に就任した当時の2013年5月10日掲載「国立情報学研究所 喜連川新所長の決意」も参照していただきたい。

喜連川優氏のプロフィール
セミナーは大学生および大学院生から質問を受ける形でさまざまな話題が上がったが、ここではその中で「なぜ、日本は海外に比べてIT化が遅れ気味になってしまっているのか」という質問に対する同氏の答えを紹介したい。
まず、この質問に対する認識については、「ITの中でもネットワーク環境については、日本は世界の中で韓国に次いで二番手につけている。ただ、今回のコロナ禍での行政におけるIT利用の状況などを見ると、日本のIT化は海外に比べて遅れていると言わざるを得ない」とのことだ。
では、その理由は何か。喜連川氏は次のような見方を示した。
「大きく2つある。1つは、日本政府の中に本当の意味でITを理解している人が、あまりいないと見受けられることだ。政府は早くからIT化に取り組んでおり、2013年には『世界最先端IT国家創造宣言』も策定した。ただ、この宣言のように字を書くのは長けているものの、書いた内容を実行できているかといえば、できていない。実行できないのは、すなわちITが分かっていないからだ」
「字を書くのは長けているものの、書いた内容を実行できていない」との指摘は、政府だけでなく、日本企業にも当てはまるようだ。同氏は、「例えば、米国企業の経営トップはどの業種でもIT活用について語ることができる。しかし、日本企業の経営トップでそういう人がどれくらいいるか、心もとない」とも嘆いた。
また、もう1つの理由については、「コンピュータサイエンスを学ぶ大学生の人数が海外に比べて非常に少ない。私の感覚では、米国と比べてフタ桁違う。日本では既存の学問とのせめぎ合いがあるようが、そんなことをしているうちに世界からもっと遅れていってしまう」と警鐘を鳴らした。冒頭の発言は、これら2つの理由を合わせたものである。
国立研究機関のトップが政府に苦言を呈した形だが、喜連川氏の危機感はそれだけ強いということだろう。筆者もこの記事を書くことで、その危機感に同調したい。