“ブラックボックス”に手を突っ込んで問題を切り分ける
国内に302カ所、海外に27カ所の取材拠点を持つ読売新聞社。2020年4月時点の販売店数は約7000店で、朝刊発行部数は約770万部を誇る。
読売新聞東京本社は現在、本格的なシステム移行に備え、統合型仮想基盤(以下、仮想基盤)へのサーバー集約を進めている。制作局 技術一部で次長を務める鬼丸裕臣氏は「スムーズな移行を実現するためには、仮想基盤の性能問題や高負荷テストの調査時間を削減しなければならない。また、アプリケーションやインフラ基盤の担当者をはじめ、開発や保守を担当するベンダーが実施している調査の効率化もする必要があった」と語る。
読売新聞の技術部門は三部に分かれており、鬼丸氏が所属する技術一部では、新聞の制作工程を管理する新聞制作系システムの管理やインターネットサービス基盤の構築を担当している。技術二部は新聞を印刷する輪転機など生産設備の開発や管理を、技術三部は人事や総務、経理、販売などのバックオフィス系システムの開発をそれぞれ手掛けている。ちなみに、本社と支局、工場などを結ぶネットワーク構築やITシステムのセキュリティ対策、人工知能(AI)などの最新技術の導入検討などは、技術一部が担っている。
読売新聞 東京本社 制作局 技術一部 次長 鬼丸 裕臣氏
鬼丸氏が仮想基盤の調査時間の短縮や効率化を図りたい背景には切実な理由があった。仮想基盤は導入時や維持管理のコスト削減、リソースの迅速な再分配が可能といったメリットがある反面、構成が複雑になりがちで管理が難しい。一度問題が発生すると、その原因の特定と切り分けに時間がかかるのだ。
「例えばレスポンスが遅くなったとき、それがネットワークに起因する遅延なのか、CPUの使用率が100%になっているのか、それともアプリケーションでトラブルが発生したのかがわからない。この原因を特定するためには社内外の全担当者に連絡し、問題の発生時間前後の挙動についてレポートの提出を求めていた。しかし、この方法では時間がかかるうえに、作業に携わる担当者全員の作業負担が増加する。この課題を解決するためには、仮想基盤やアプリケーションの状態を一元的に可視化できるツールが必要だった」(鬼丸氏)
すべてのレイヤーを一気通貫で可視化
鬼丸氏が仮想基盤の分析ツールとして選択したのは、米Uila社の「Uila」(日本総代理店東陽テクニカ)だ。エージェントレスで仮想化基盤や仮想デスクトップ基盤(VDI)、クラウド環境をモニタリングし、一括画面で可視化する。
Uilaを選択した理由について鬼丸氏は、「障害発生時や負荷テストを実施した時に『どこがボトルネックになっているのか』『ネットワークやCPUにどのくらいの負荷かかかっているのか』が一目瞭然だから」と説明する。
Uilaは仮想マシンの通信パケットとリソース情報をもとに、アプリケーションと仮想基盤をシームレスに分析、可視化する。可視化対象となるのは、アプリケーションのパフォーマンスをはじめ、「ネットワーク」「CPU」「ストレージ」「メモリ」のヘルス状態だ。あらかじめ設定した閾値を超えたら「アラームリスト」に表示される。
読売新聞 東京本社 制作局 技術一部 小山大貴氏
読売新聞東京本社 制作局 技術一部 小山大貴氏は「トラブル発生箇所が赤く表示されるので、スキルが高くない新人でも問題箇所の特定や調査の切り分けができる」とそのメリットを語る。
技術一部では約60台の物理サーバー上で、約800台の仮想サーバーと1000台超のVDIを管理している。特にVDIはコロナ禍のテレワーク増加に伴い、当初の予定よりも大幅に台数が増加した。
鬼丸氏によると、当初の計画では2020年夏の時点でVDIは700台程度の稼働を予定していたが、拡張できる限界までVDIの台数を増やすことに決めた。そのリソースの計算や解析にも、Uilaが役に立ったという。