ブイキューブは、ウェブ/テレビ会議サービスを主軸に、近年はオンラインセミナープラットフォームや、さまざまな場所でプライベートな空間を確保できる「TELECUBE」、各種業界向けに遠隔接続機能を組み込めるSDK(開発キット)を展開するなど映像コミュニケーションに関するソリューションの幅を広げている。また、そうしたビジネスを手掛けることから自社の柔軟な働き方の実現にも取り組んできた。代表取締役社長CEO(最高経営責任者)の間下直晃氏に、“リモート文化”の醸成への取り組みと、コロナ禍で生じている社会的変化への対応について聞いた。
どんな人にも平等な機会
現在の同社は、ミッションステートメントに「Evenな社会の実現」を掲げる。間下氏によれば、これは育児や介護などさまざまな事情を抱えていようとも、テクノロジーを通じてあらゆる働く人に平等な機会が実現されることを目指すというもの。「コミュニケーションのDX(デジタルトランスフォーメーション)」という表現もしている。

ブイキューブ 代表取締役社長CEOの間下直晃氏
コロナ禍によってわずか数カ月の間に、ウェブやテレビ会議を通じた映像コミュニケーションが日常になり始めた。間下氏は長らく「映像コミュニケーション」という言葉で新しいコミュニケーションの在り方を提唱していたが、「2020年初頭まで日本ではなかなか浸透せず諦めかけていた。ところがコロナ禍で様相が激変し、『リモートでも良い』という感覚が急に広がった」と現在の心境を語る。
これまでウェブやテレビ会議の利用は、海外など遠隔地とのやりとりが中心で、ここ数年の一部企業における「働き方改革」の取り組みからが広まりつつあったものの、それでも利用機会が身近だとは言い難かった。それがコロナ禍で一変し、多くの人や組織が接触感染を防ぎながら生活や経済活動を維持するために代替手段として「オンライン」「リモート」を取り入れたが、それらの体験を通じて、場所や時間といった制約にとらわれないメリットも感じ始めている。
間下氏がITベンチャーとしてブイキューブを創業してからしばらくは、テレワークなどの柔軟な働き方がある意味で当たり前だったという。しかし、事業規模が拡大するにつれて「軍隊式のような従来型の働き方に変わり出した」といい、柔軟な働き方を確立すべく2010年に最初のテレワーク制度を創設した。2017年には現行制度の「Orange ワークスタイル」に改め、テレワークの利用回数を従前の週1回から全従業員対象が無制限で行えるようにし、場所も在宅のみの制約を撤廃した。労働時間も固定あるいは裁量から午前6時~午後9時の「スーパーフレックス」に変更した。
同社は、こうした「制度」や「場所」に加え、「文化」「ツール」の4つの観点から柔軟な働き方の定着化を進めてきたという。元々ある柔軟な働き方を受け入れる感性だけでなく、例えば、リモートの社員が孤立感を覚えないように雑談がしやすいツールを自社開発して多様なコミュニケーションを取れるようにしている。働き方に対する社員の意識をエンゲージメントスコアとして定量的にも測りながら人事評価などの仕組みも柔軟な働き方を前提に改善を積み重ねてきた。先述したミッションステートメントも、全社員が同じ価値を共有するために定めたものになる。
それでもコロナ禍は、こうした同社の取り組みに新たな課題をもたらしたという。「平均すると、テレワークの利用は月に6日ほどだったが、緊急事態宣言によって、それが毎日かつ全社員がその状況に置かれた。自宅の椅子や机では厳しい。通信回線の費用や電気代が気になるといった声が挙がった」と間下氏。オフィス以外の場所が日常業務の中心に変わったことでテレワーク環境の整備が急務になり10万円の手当を支給した。
コミュニケーションの取り方もこれまで以上に工夫し、「例えば、オンライン飲み会や新規プロジェクトの立ち上げ、社員が企画する全社規模のオンライン交流会の実施など新しい方法が必要で、あえてそうした機会や場を作ることが大切だと考えている」(間下氏)いわば、社員同士の横のつながりと上司と部下といった縦のつながりをメッシュのようにカバーするコミュニケーションの実現になるという。
ただ、間下氏自身はコミュニケーションがオンラインでもリアルでも、どちらでも良いという考え方だ。「ゼロかイチかではなく、必要に応じて在宅やオフィスなどの多様な手段があり自由に選べる環境や制度であるべきだと思う。コストを気にしてオフィスを縮小する考え方が出てきており実際にそうした動きが広がるかもしれないが、オフィスの存在が社員にとって心のよりどころになる面もあり、当社してオフィスを減らすことは考えていない」と話す。