三井情報は、7月にSaaSのSAP S/4HANA CloudとSalesforce Sales Cloudを連携させる新しい基幹システムの運用を開始した。クラウドの普及が進み現在では異なるサービスの連携が難しくないように思えるが、実行しようとすると予期しなかった状況に直面することは多い。同社に新しい基幹システムの導入をめぐる取り組みを聞いた。
脱・内製主義と標準文化へのシフト
今回のシステム刷新は、長年運用してきたSAP ECC 6.0(以下、SAP ERP)のサポート終了(2027年)やその基盤のOSのサポート終了などを背景として、これを期にクラウドを前提とするITシステムと業務プロセスへ変革することが目的だ。同社は、2018年4月に策定した第5次中期経営計画で「KNOWLEDGEによる価値創造」を掲げ、この取り組みはそれを体現したものになる。
三井情報 取締役 副社長の秦健二郎氏
取締役 副社長の秦健二郎氏は、「現在はSAP ERPのサポート終了が2027年に再延期されているが、2025年とされたタイミングでは多くの企業がDX(デジタル変革)に乗り出し、政府の掲げる『Cloud by Default』の原則もあり、クラウドを積極的に利用していく方向に切り替えた」と話す。基幹システムの刷新についても、「新しいクラウドERPのS/4HANA Cloudを使っていくというだけでなく、部分導入していたSalesforce Sales Cloudも本格的連携させるという新しい試みで、この経験をナレッジとして顧客に還元したいという狙いもある」という。
三井情報は、三井物産の情報システム部門を母体とするが、現在のビジネスは外部顧客向けのシステム開発や保守などが中心となっている。ERP(統合基幹業務システム)などでは、製品標準ではない部分のいわゆる“アドオン”の開発や保守などのビジネスが大きかっただけに、全社を挙げたクラウドへのシフトは、既存ビジネスを脅かす懸念があっただろう。
秦氏もその点を認めつつ、「当社が掲げている『KNOWLEDGEによる価値創造』というメッセージに照らせば、クラウドが主流になる新しいモデルに先駆けて取り組まなければ取り残されかねない。小日山(代表取締役社長の小日山功氏)を中心に、当社の将来像を全社員で議論する場を定期的に設けており、従来のビジネスモデルや内製開発主義といったスタイルにこだわらない意識改革も進めてきた」と語る。外部顧客向けにさまざまなクラウドサービス商材を提供する立場からも、今回の自社システムのクラウド化は、外部顧客のためのモデルケースという位置付けでもある。
今回の基幹システムを含め同社は、さまざまなSaaSの組み合わせによる業務システム環境に変えていく。この全体像「MKI ITグランドデザイン」を手掛ける経営企画統括本部 戦略企画部 IT戦略企画室長の岡田秀之氏によれば、複数のSaaSを組み合わせたマルチクラウド化を実現する上で可能な限り標準化を図るとともに、エンドユーザーとなる現場社員の業務に支障が出ないよう異なるサービス同士の連携に注力した。
まず標準化の取り組みでは、SAPが提唱する「Fit to Standard」の手法を利用してBPR(Business Process Re-Engineering)を推進した。旧システムでの個社機能あるいはそれに基づく業務プロセスの棚卸しを行い、新しいS/4HANA Cloudの標準機能に合わせた業務スタイルに変えていく作業は容易ではないこともあったが、全体的には先述の社内の意識改革もあり、現場業務を預かる社員の理解や協力を得て実行することができたという。
S/4HANA Cloudと連携するSalesforce Sales Cloudについては、以前から案件の見積りなどで部分的に利用してきたが、この連携を通じて受発注や約定などの情報も活用し一元的な管理を行えるようにする。営業担当者が案件情報を入力するだけで経理処理やダッシュボートによる進ちょく把握といったことができる「シングルインプット/マルチアウトプット」の実現を目指す。