山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国の農村版スマートシティーの取り組み

山谷剛史

2020-09-30 07:00

 中国では、さまざまな形でスマートシティーの整備が進められている。スマートシティー向けのシステムでは、阿里巴巴(アリババ)の「城市大脳」が知られている。華為技術(ファーウェイ)や百度(バイドゥ)などもシステム開発に乗り出している。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生したとき、各都市は感染の恐れのある人々を把握、隔離、治療するためにスマートシティーの仕組みを活用した。そうしたことから、各都市が何かしらのスマートシティーパッケージを導入していたといえる。

 農村部でも実験的にスマートシティーの導入が開始されている。厳密には“スマートヴィレッジ”と呼ぶべきかもしれないが、今回は便宜的にスマートシティーと呼ぶ。中国のスマートシティーというと、ネットワークカメラ(防犯カメラ、監視カメラ)を多数配備して、人々の動線把握や治安維持などに使われていて、コントロールセンターで映像を監視している様子をイメージすると思うが、それを農村向けにアレンジしたものになる。中国では、農村向けソリューションという意味で「数智郷村一張図」と呼ばれている。

 浙江省の湖州市徳清県で、アリババの城市大脳をベースとした数智郷村一張図が導入され、杭州城市大数据運営公司(杭州都市ビッグデータ運営社)によって活用されている。大きく「農村計画」「農村経営」「農村サービス」「農村環境」「農村防犯」の5つの機能があり、リアルタイムで農村の状況や生産活動を知ることができるとしている。言い換えれば、村のさまざまな問題を早期発見し、速やかに問題を解決するシステムだ。

 その詳細が全て明かされているわけではないが、例えば、信号機やゴミ箱をはじめとしたものがIoTでつながり、路上のゴミ箱にゴミがある程度たまるとセンターに通知が飛ぶ。ゴミ箱が満杯になる前に回収することで、無分別に捨てられるリスクを減らし、ゴミの分別率を高めたとしている。

 道路に障害物が落ちていたり、電線に物が引っかかっていたり、信号機が故障したりしたときにも自動でセンターに通知され、作業員が派遣されて問題に対処する。監視が強化されるという側面もあるが、これまで平均5日かかっていた障害対応が3時間にまで大幅に短縮されたそうだ。

 新型コロナウイルス感染症の対策としては、都市部ではマンションやビルごとの感染状況に応じてQRコード(緑色は安全、赤色は危険)を表示する「健康コード」を運用した。農村部は戸建てばかりであり徳清県も例外ではないが、都市部と同様に村の全戸を城市大脳に登録し、どこで誰が感染したかを確認できるようになったという。

 また農村版城市大脳では、産業インターネットもサポートするようだ。約30カ所の工場によるピアノ(部品)の生産が盛んだが、それぞれの工場を城市大脳に登録し、各工場の需要と供給を把握し、適切な生産量を指示することによって農村の産業を振興させるとしている。

 問題の発見や状況の把握だけでなく、ビッグデータによる分析もある。村の運営データがたまっていくことで、さまざまな効率化に役立てられる可能性がある。他にも政府のデジタル化により、役所に出向く手続きをスマートフォンでできるようにした。

 また農村部では住民による土地のトラブルが多い。公開されている情報が少なく、自治体の政策も十分に理解されていない。役所では外来人口も含め、住民の実態を把握できていないといった問題がある。2019年5月には中国政府(国務院)が「数字郷村発展戦略概要」において、農村部の振興にはデジタル化が重要だと発表している。農村のさまざまな問題の解決に向けて、数智郷村一張図はやがて活用されるだろうし、あるいは既に活用されているかもしれない。

 まだまだ農村版スマートシティーは出来たばかりだが、これまでの都市向けスマートシティーがそうだったように、徳清県での導入で改善を重ね、中国全土に行きわたっていくのではないだろうか。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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