Googleは10月6日、生産性スイート「G Suite」を「Google Workspace」にリブランドすると発表した。リモートワーク中心の働き方に合わせて、メッセージング、ミーティング、ドキュメント、タスクなどの機能を統合する。新しい働き方のニーズを満たす一体化した体験の提供を目指す。

Google Workspaceのアイコン
Googleは2004年にGmailを発表して以来、「Google Docs」「Google Sheets」「Google Slides」などをはじめとする生産性ツールにサービスを拡充してきた。2016年には「Google Applications」から「G Suite」に名称を変更し、今回のリブランディングの背景にあるのは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で加速する働き方の変化だ。

Google Workspaceを統括するバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのJavier Soltero氏
Google Workspaceを統括するバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのJavier Soltero氏は、同日開催のオンライン説明会で「仕事はもはやオフィスという物理的な場所で遂行、管理されるものではない」といい、個別の問題を解決するアプリケーションスイートから、アプリケーションの垣根を意識させないワークスペースへと進化させていく姿勢を強調した。
Soltero氏は、同社が考える新しい働き方の課題として、(1)物理的な場所に制限されない、(2)貴重なリソースになる時間と注意の管理、(3)人のつながりが重要に――の3つを挙げる。
(1)については、コロナ禍でのリモートワークに代表されるように「分散した環境で仕事をする」という働き方が主流になりつつあることだ。「COVID-19が落ち着いても、半分はリモートのままという予想もある」とSoltero氏は指摘する。
(2)は、オフィスではなく自宅などのリモート環境で仕事をすることで、仕事とそれ以外の境界があいまいになりつつあることを受けてのこと。(3)について、Soltero氏は「大きなことを達成するためには、信頼を構築しなければならない。新しいことではないが、電子的なコミュニケーションに依存する中でこの課題はさらに難しくなっている」と述べる。
実は、Soltero氏が率いるGoogle Workspaceチームも同じ場所で一緒に仕事をしたことがないという。発表会に同席したプロダクトマネジメント シニアディレクターのSanaz Ahari氏とも実際に会ったことがない。信頼構築のために、チームは「何度もビデオ会議をした」という。その時々でミーティングに幹部も加わったそうだ。
上述した3つの課題は、Google Workspaceのサービスとしての方向性にもなっており、チャット、メール、音声、ビデオ通話、コンテンツ管理といった個別のアプリケーションの境界をなくしてコミュニケーションとコラボレーションを密に統合し、統一されたユーザー体験を提供していく。
Google Workspaceの発表に併せて新機能も発表された。
人工知能(AI)を使った機能としては、Docs、Sheets、Slidesのドキュメント内でユーザーをメンションすると、連絡先の詳細がポップアップ表示されるようになった。「共有」などの次に取るべきアクションも提案する仕組みになっている。また、リンク先のコンテンツをプレビュー表示する機能も搭載された。作業中の画面を切り替える必要がないため、時間の節約になるという。
また、Gmailからそのままファイルの作成や共有が可能になった。チャット画面でドキュメントの作成したり、ゲストユーザーと共同編集したりできる。
Google Meetのピクチャーインピクチャー機能については、7月にGmailとGoogle Chatで導入することを発表したが、今回はさらに拡大して、Docs、Sheets、Slidesでも利用できるようにする。これにより、画面越しにお互いの顔を見て話しながら共同編集などができるようになる。
Google Workspaceのリブランドに合わせ、料金プランも拡充した。300人以下の小規模企業向けでは、1ユーザー当たり月額680円の「Business Starter」(旧名称「Basic」)、同1360円のBusiness Standard(旧名称「Business」)、そして新しいプランとなる同2040円の「Business Plus」の3種類を用意する。最上位のBusiness Plusは、エンタープライズ向け機能は必要としていないが高度な機能を必要とする企業向けのプランで、「Google Vault」やモバイル端末管理(MDM)などのセキュリティ機能、規制順守のためのガバナンス機能が入っている。
これに加え、大企業向けのEnterprise、今春発表した1アクティブユーザー当たり月額8ドルのEssentialsもこれまで通りそろえる。Googleによると、数カ月以内に教育機関や非営利団体向けにもGoogle Workspaceを提供する予定という。既存のG Suite for Education、G Suite for Nonprofitsはこれまで通り利用できる。
コロナ禍で世界的にテレワークが広まり、SaaSベースのコミュニケーションとコラボレーション市場は活況を呈している。それと同時に市場競争も激化しており、Googleはビジネスチャットからコラボレーション機能を強化してきたSlack Technologies、「Office」をテコに豊富な機能を提供するMicrosoftなどと競合関係にある。Slackは今週末に年次イベントを開催し、新機能を発表することになっている。
Googleによると、同社の生産性・コラボレーションアプリに毎月アクセスする消費者や法人、教育を合わせた月間ユーザー数は世界で26億人に達しているという。G Suiteの導入企業は2020年3月時点で600万社を超えたと報告している。