内山悟志「デジタルジャーニーの歩き方」

デジタルファーストへと進化するDXの本質

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト)

2020-10-15 06:00

 2020年春からのコロナ禍によりデジタル化に対する関心が一層高まり、9月に発足した菅内閣でもデジタル庁の設置が決まりました。デジタル変革(DX)は次のステージに突入したといえます。今回は、DXの本質的な意味がどのように変わろうとしているのかについて考察します。

コロナ禍で関心が高まった働き方のデジタル化

 新型コロナウイルス感染症の拡大によって在宅勤務や出社制限が推奨されたことを受けて、多くの企業がテレワーク環境の整備を進めたことは、DXの推進において追い風となった部分はあると考えられます。

 ITRが緊急事態宣言下の4月24〜27日にかけて実施した緊急調査でも、政府の緊急事態宣言発令に伴う経済活動の自粛による、自社のIT戦略の遂行(デジタル化の進展)への影響について、企業のIT戦略は「大いに加速すると思う」が27%、「やや加速すると思う」が44%となり、合計で71%が加速する要因になると回答しました。コロナ禍による業務の停滞やビジネス上の問題をきっかけとして、企業活動におけるIT活用やデジタル化の重要性が改めて確認されたといえます。

 また、厚生労働省とLINEが共同で、3月31日~4月1日、4月5~6日、4月12~13日の3回にわたって調査した「オフィスワーク中心(事務・企画・開発など)の人におけるテレワーク実施割合」の全国平均は、第1回が14%、第2回が16%、そして第3回が27%と実施率が増加していった様子が示されています。

 しかし、ここで注意しなければならない点があります。それは、一部の企業経営者が「DX=テレワークの推進」と思い込んでしまったことです。テレワークは確かにデジタル化への取り組みではありますが、それはDXの全体像のごく一部の要素に過ぎません。DXは働き方にとどまらず、業務プロセス、顧客や取引先とのやりとり、商品・サービスそのもの、ビジネスモデルをデジタルに適応させるとともに、それらを支える組織、人材、制度、文化・風土など企業を丸ごと変革する取り組みです。テレワークもハンコ廃止も有効な施策の1つではありますが、それをDXのゴールと考えるべきではありません。

デジタルが「手段」から「前提」に変わる

 今後、社会のデジタル化がさらに進展していくに従って、DXの本質的な意味も変わってきています。これまでは、データやデジタル技術は手段と位置付けられていましたが、今後は「手段」ではなく「前提」に変わっていきます。社会や経済活動全体が高度にデジタル化され、あまねく浸透している世界が開けると、それに適応した企業に、丸ごと生まれ変わることがDXの本質となっていくでしょう。

 ビジネスモデル、取引や顧客との接点、働き方や社内の業務プロセス、意思決定や組織運営の方法、組織カルチャーなど全てが、デジタルを前提として組み立てられている企業が今後の目指す姿となります。すなわち、DXとは「企業をデジタル“で”変革する」のではなく「企業をデジタル“に”変革する」ことを意味します(図1)。

 例えば、人と連絡を取るとき、何かモノを買おうとするとき、会社で経費精算を申請するとき、顧客から支払いを受けるときなど、何かをしようとしたときに、まずはテクノロジーの活用やオンラインで実現できないかと考え、どうしてもできない事情があるときだけアナログな手段を使うということです。すなわち「デジタルファースト」で物事を考えることを意味します。

図1.ニューノーマルの時代のDXとは(出典:ITR) 図1.ニューノーマルの時代のDXとは(出典:ITR)
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