オンライン取引でデータの真正性を証明--EUで活用される「eシール」って何だ? - (page 2)

阿久津良和

2020-10-20 07:15

 たとえば患者が病院で診察を受けて電子処方箋が発行された場合、健康情報ネットワークサービスである「eヘルス」のデータベース(DB)でデータの信頼性を検証。患者が調剤薬局に出向いて国民IDカードを提示すると、電子処方箋情報をDBに照会し、薬剤の処方に至る。

 これら一連のプロセスすべてにeシールが介在するものの、「X-Roadで発生するトラフィックの95%は人が介在していない」(濱口氏)。現在X-Roadには412の民間組織と258の公的機関が接続しており、2018年時点のリクエスト数は約10億件にのぼっている。

GMOグローバルサイン プロダクトマネジメント部 部長 漆嶌賢二氏
GMOグローバルサイン プロダクトマネジメント部 部長 漆嶌賢二氏

オンライン税関手続きにeシールを利用

 GMOインターネットグループで情報セキュリティや電子認証などを事業とするGMOグローバルサイン(渋谷区) プロダクトマネジメント部 部長 漆嶌賢二氏は「EU eシール用適格証明書の発行と利用事例」と題したセッションに登壇。自社の欧州向けeシールサービスについて解説した。

 同社は2018年12月からeシール署名用の法人向けデジタル証明書を提供しており、2020年6月には日本版eシール対応サービスの開発に着手している。

 eシールの具体的な利用例として、貨物や郵便のオンライン税関手続きの事例を紹介した。EU加盟国では空港や船舶、鉄道などによる貨物の税関手続きをオンライン化する「ICS2(Import Control System 2)」に取り組んでおり、本稿執筆時点ではリリース1を2021年3月に発行する予定だ。

 運輸事業者が認証・署名用共通システムである「UUM&DS(Uniform User Management & Digital Signature)」にログインして貨物情報を登録すると、その情報と文書eシールがICS2に送信される。各EU加盟国の税関担当者は違法物や禁止物が含まれていないかCustom Decision System(CDS)を通じて確認する仕組みだ。

 リリース1では欧州郵便事業者と第三国郵便事業者が利用するが、2023年3月のリリース2では航空会社や貨物事業者に拡大。2024年3月のリリース3になると、海上や内陸水路、道路、鉄道を用いた貨物事業者が利用可能になる。

 他にも欧州の請求書と税務処理や金融機関の決済サービスにeシールが使われいる現状について、漆嶌氏は「(現在は)EU中心だが、アジア圏にも拡大しつつある。業種に偏りはないものの、政府調達の応札要件などで利用するケースが増えつつある。eシール証明書は法人向けに発行した証明書であり、特段新しい仕組みではなく、(電子署名と)異なるのは厳格な審査を経て発行されているのが大きな違い。今後eシールの利用幅は拡大する」と見ている。

帝国データバンク 業務推進部 ネットサービス課 課長補佐 小田嶋昭浩氏
帝国データバンク 業務推進部 ネットサービス課 課長補佐 小田嶋昭浩氏

日本版eシールの展開を目指す帝国データバンク

 同じく2020年6月に日本語版eシール対応サービスの開発に着手した帝国データバンク(港区)の業務推進部 ネットサービス課 課長補佐 小田嶋昭浩氏は「『日本版eシール』に関する政府検討状況と自社サービスの検討」と題したセッションに登壇した。

 発言内容は個人的見解を前置きしながらも、小田嶋氏は「インターネット介したデータ送信は送信元が信用できず、改竄検知も難しい。eシールを付与することで発出元確認や改竄検知時の否認を弊社が判断できる。データ受領側も発出元も利点が多い」と強調した。現在は企業信用調査レポートに代表されるデータやAPI経由の提供データへのeシール付与を想定している。

 昨今はコロナ禍も相まって非対面でデータを送受する場面は珍しくない。だが、小田嶋氏は現状について「潜在リスクは審査部や決裁者にも当てはまる」と指摘する。非対面の場合は制作者が明確ではなく、データ受領側も完全性の証明は困難である。だが、eシールを付与することで、発出元の特定や改竄の有無、確認処理の自動化を実現できるという。

 小田嶋氏は「コロナ禍で大変な世の中だが、(自動化が)大きく寄与する」と利点を述べつつ、開発中のサービスで法人(組織)に対する本人確認や電子データのフォーマット、eシールの証明書プロファイル、民間認定制度、タイムスタンプの認定制度、リモート署名に関するガイドライン、API仕様の提供を目指している。

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