オランダNN Groupの日本法人のエヌエヌ生命保険は、2017年からシステム開発に「スケールドアジャイルフレームワーク」を導入、その多くを内製化すると同時に、現在のコロナ禍においては頻繁なリリースを通じて事業環境の変化へ柔軟に対応可能な体制を実現している。同社にスケールドアジャイルフレームワークを中心としたシステム開発における取り組みや変化を聞いた。
スケールドアジャイルは、エンタープライズ向け大規模アジャイル開発のためのフレームワークになる。ビジネスとITが一体となり、複数の組織横断型プロジェクトチームのコラボレーションやアジャイル手法、リーン開発、デリバリーなどが体系化されている。
エヌエヌ生命保険では、プロジェクトごとにエンジニアと事業部門のメンバーが協働する「スクアッドチーム」を組成し、現在は各チームがスケールドアジャイルフレームワークを実践しつつ、月次で全チームが開発・リリース計画を共有し、評価ツールを用いた相互検証を行うことで、全社的なIT戦略との整合性を図っている。導入当初の年間のリリース頻度は約20だったが現在は約90にまで増え、文字通り変化への対応力とスピード、柔軟性を兼ね備えたITを体現している。
エヌエヌ生命保険 トランスフォーメーション部 ビジネストランスフォーメーションリードの北澤俊二氏
トランスフォーメーション部 ビジネストランスフォーメーションリードの北澤俊二氏によると、スケールドアジャイルの導入は、ウォーターフォール型の開発に限界を感じたためという。「大規模プロジェクトほど当初計画から長期化し予算もリソースもかけ離れてしまい、エンドユーザーやお客さまの満足度が低下する。満足度をいかに高め維持するかが課題だった」(北澤氏)
そのため、まずは2015年春に「PRINCE 2」と呼ばれるプロジェクト管理手法を導入し、アジャイル開発に乗り出した。トレーニングなどを通じてプロジェクトチームのスキルを高め実践し、件数ベースでは100%近くまで、予算ベースでは85%までPRINCE 2の適用効果を確認するに至った。ただ、それでも予算規模の大きい幾つかのプロジェクトではPRINCE 2の実践に限界があり、また、代理店向けなど基幹系システムでは、パートナーベンダーとの連携体制などの環境によりウォーターフォール型の手法を維持する必要もあったという。
そこで、NN Groupの海外法人で先行していたスケールドアジャイルに注目し、2016年に採用を決定。旧INGなどでプロジェクト経験のあるグループ会社のエンジニアを日本に招き、そのノウハウを習得して2017年に実践を開始した。
エヌエヌ生命保険におけるアジャイル開発の歴史
北澤氏によれば、グループ内ではスペインとハンガリーの現地法人において既にスケールドアジャイルが全社的に定着しており、日本法人も近い状況にある。ベルギーやポーランドでもスケールドアジャイルを展開し始めているが、一方でチェコやトルコ、ギリシャは事業環境などからその採用をあえて見送っているという。
日本法人におけるシステム内製化の体制は、スケールドアジャイル導入前は対応可能なエンジニアがわずか5人ほどだったが、現在は100人を超える規模にある。外部委託していたシステム開発のほとんどがここ数年で内製に変わった。エンジニア採用も容易ではないが、面接時にスキルやリテラシー、マインドを重視し、入社後のトレーニングに力点を置く。業務時間の10%をエンジニア自身のスキルを高めることに割り当てるようにしており、オンライントレーニングなどコンテンツもエンジニアに提供しているという。
定期的に実施するITの研修にはCEO(最高経営責任者)などの経営陣も参加するといい、2019年11月に行ったMicrosoft本社でのテクノロジー研修では、各国法人のCIO(最高情報責任者)が参加した。
(2020年11月10日修正:初出時に「ドイツやポーランド」と記載しましたが、正しくは「ベルギーやポーランド」です。お詫びいたします。)