サントリー、グローバルIT基盤をAWSに全面移行

國谷武史 (編集部)

2020-10-29 06:00

 Amazon Web Services(AWS)は、飲料大手のサントリーが企業買収などで分散していたIT基盤をAWS環境に統合・移行したことを発表した。サントリーグループの担当者らがこの取り組みについて説明してくれた。

 サントリーホールディングス BPR・IT推進部長の城後匠氏によると、サントリーグループでは、海外を中心とした買収・合併に伴ってIT基盤が分散していた。2017年にこれをハイブリッドクラウド型に移行することを検討し、2018年にプロジェクト「サントリーアイランド2」をスタート。5つのリージョンによるグローバル共通のITインフラに刷新する。2020年8月にまず日本で完了し、現在は海外での移行を順次開始している状況にある。

サントリーグループでのIT基盤クラウド移行プロジェクトの概要
サントリーグループでのIT基盤クラウド移行プロジェクトの概要

 同社は、2015年からAWSを利用していたといい、IT基盤の移行では他社サービスと比較した結果、従前の利用経験や大規模なIT基盤の運用実績をもとにAWSを採用したという。グループ各社の業務システムに応じて最寄りのリージョンに移行し、基盤運用はグローバル共通としつつ、インドのオフショアも活用する。これによりIT基盤の運用コストを約25%削減するという。1000台以上のサーバーをEC2環境に移行するが、一部の物理サーバーはオンプレミスで運用を続けるため、形としてはハイブリッドクラウドになる。

 城後氏によれば、今回のプロジェクトは年2回開催するCIO(最高情報責任者)会議で検討を重ねてきた。海外を含むグループ各社のCIOの合意形成を図り、移行作業は日本と海外のエンジニアが連携して取り組んできた。IT基盤の標準化と共通化を図り、運用を効率化することで、グループ内のリソースをデジタルビジネスのための新たな施策に集中させる狙いもある。既に新規ビジネスへ向けたデータプラットフォームもAWSで構築を進めている。

 同社グループのIT施策を担当するサントリーシステムテクノロジーで取締役 基盤サービス部長を務める加藤芳彦氏は、IT基盤のクラウド移行後の状況を入念に検討、準備した上で、プロジェクトに臨んだと語った。

 先述の通り、2015年にAWSの利用を開始して2年ほど技術調査や利用の習熟などを図りつつ、クラウド移行に向けた構想を検討してきたという。クラウドへの道のりは、まずこうしたクラウド環境に慣れる“クラウドファースト”の取り組みを進め、次に、クラウド環境を本格的に利用する“リフト&シフト”の2段階のアプローチを採っている。同社グループの商品を利用する顧客にまつわるシステムからクラウドを活用し、今回のIT基盤をクラウド化するというステップだった。

 国内におけるIT基盤の移行プロジェクトは、2019年4月にスタートし、まず3カ月間は現状の棚卸しや、移行後の構成検討、スケジュールの策定、移行方法の検討、移行後の検証スコープといった準備を中心に進めた。同年7月から11月にかけて、最初に大量にデータを処理するシステム、次に外部連携するシステムという順番で移行させ、12月にいったん実施内容を振り返り、発生した課題の確認や対応、改善点を整理した。

 2020年は、振り返りによって明確にした各種作業を4月まで実行し、5~7月は調整を要するシステムやDNSなど最後に移行すべきシステムを対象にクラウド化を実施していった。8月にほぼ作業を終え、オンプレミスで利用していたデータセンターを解約している。

日本における移行の流れ
日本における移行の流れ

 加藤氏は、プロジェクト経験からの気づきを「早く決めること」と総括する。同社のケースでは、クラウドを利用してIT基盤をグローバルに共通化し効率化することを早期に意思決定し、AWSプロフェッショナルサービスを利用して準備を入念に進めたという。例えば、移行対象とそうでないサーバーの洗い出しに時間を要したことから、作業前に移行パターンを整理し、移行対象とするサーバーのグループ分けといったことを行った。この間はエンジニアの育成にも注力し、プロジェクトの実施段階までに十分な人材を確保できたという。

 また、移行中にもクラウドならでは構成や手順、検証などの内容を随時見直した。例えば、アクセス制御などは、オンプレミス環境では許可される範囲から制限する範囲を絞り込んでいくという方法だったが、クラウド環境は制限される範囲から許可する範囲を絞り込んでいく逆のやり方になった。

 AWS環境への移行により、IT基盤の稼働率が向上したほか、基盤リソースの提供するリードタイムも大幅に短縮され、グローバルでの提供スピードも向上したという。移行パートナーにはクラスメソッドを選定し、パートナープログラムの活用でコストも節減されたという。加藤氏は、「個人的な感想にもなるが、管理すべきIT資産が大幅に減り、特にデータセンターに関するものはかなり減少している。IT資産管理業務の負担が解消され、これもコスト削減につながる。運用もグローバルに効率化されることで、継続的な改善に取り組みやすくなる」と話す。

 移行時に生じた課題としては、例えば、データの移行作業はAWSのSnowballで実施しようとしたが想定以上のダウンタイムになることが分かり、Direct Connectサービスのネットワーク帯域を増やして対処した。ストレージについては、オンプレミス時代はなるべく高い性能を得る構成としてきめ細かく設定を行う手間がないようにしていたが、クラウド環境のストレージではプロビジョンドIOPSなどを利用し性能を得るためのチューニングを必要とした。事業継続性の観点では、業務の重要度に応じたリージョンや構成の選択を検討したという。

 国内では今後、AWS環境における運用の継続的な改善やセキュリティ対策の強化、コストの可視化と最適化など進めるほか、社内勉強会などを頻繁に行ってさらなる人材育成も図っていく。IT基盤の刷新という山場を超えたことで、同社は今後、デジタルビジネスの原動力となるデータ基盤の構築を進めていくことにしている。

新たに整備するデータ基盤の概要
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