最も包括的な人工知能(AI)レポートともいえる「State of AI Report 2019」を公開したNathan Benaich氏(Air Street CapitalおよびThe Research and Applied AI Summit(RAAIS)の創設者)とIan Hogarth氏(AI関連のエンジェル投資家であり、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の公共のための革新研究所(IIPP)客員教授)は今回、その2020年版となる「State of AI Report 2020」を公開した。
今回のレポートは前回よりもさらに内容が充実している。レポートの形式やテーマはほとんど変わっていないが、その量は30%近くも増えているのだ。前回のレポートでは136枚ものスライドでAIに関するものごとが網羅されていたことを考えると、これは相当なボリュームだといえる。
177枚ものスライドを用いた今回のレポートは、AI分野でのテクノロジーのブレイクスルーからその能力、供給、需要、分野別の人材集中状況、大規模プラットフォーム、資金調達、今日と未来におけるAIイノベーションによって変革される応用分野を網羅するほか、AI関連のポリシーと、AIに関する予測を扱う特別なセクションまで設けている。
米ZDNetはBenaich氏とHogarth氏と話す機会を得て、この調査結果について語ってもらった。
AIの民主化と産業化:オープンコードと機械学習運用(MLOps)
まず、両氏もかなりの時間がかかったと認めているその著しい成果の背景について語ってもらった。両氏は、業界やリサーチ、投資、ポリシーという彼らのバックグラウンドとともに、現在の役職を組み合わせることでユニークな視点から俯瞰(ふかん)できたと感じていると述べた。同レポートは両氏にとって点と点をつなぎ、AIのエコシステム全体に価値あるものを還元する方法になっているという。
両氏がレポートを公開する数日前に、Gartnerも2020年版の「Hype Cycle for AI」レポートを公開している。Gartnerは2020年のAIを取り巻く状況におけるメガトレンドを2つ挙げている。その2つとは民主化と産業化だ。Benaich氏とHogarth氏の見解のいくつかは、AIモデルの訓練にかかる莫大なコストと、公開されている研究結果の少なさに関わるものだ。これは、Gartnerの見方と相反するように捉えられる、あるいは少なくとも民主化の定義が異なっていることを示唆している。
Benaich氏は、民主化の捉え方はさまざまだと述べた。そのうちの1つは、AIの研究のオープンさと再現性の度合いに関わっている。Benaich氏とHogarth氏の調査によると、AI研究レポートのうちコードが公開されているものは15%しかなく、その値は2016年からほとんど変わっていないという。
Hogarth氏は、従来のAIは学術分野としてのオープンな気風を保っていたが、産業分野での採用が進むとともにその気風に変化が見られると付け加えた。企業はAI関連の人材の採用を増やしており(この点も同レポートのテーマとなっている)、知的財産(IP)を留保したいと考えているために文化の衝突が起こっている。コードを公開していないとして批判されている有名な組織にはOpenAIやDeepMindが含まれている。